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2015年8月1日土曜日

第5話 JからのSOS

第5話 JからのSOS





いよいよキス・オン・ザ・リップス・パーティーの日がやってきた。
叔母のエミリーにパーティーに行くと話したら、えらく張り切って私たちの家にやってきて、
バッグやアクセサリーを貸してくれ、ヘアメイクまで手伝ってくれた。

エミリー「素敵!よく似合ってるわー。ねえ、兄貴?」

パパ「そうだな…」

パパはぶっきらぼうに答える。

エミリー「もう、兄貴ったら。そんなに心配しなくても大丈夫よ」
    「クラブでパーティーなんて、この辺の高校生にとっちゃ、普通のことなんだから」

エミリーが取りなしても、パパは不機嫌な顔のまま。
8時ぴったりに玄関のチャイムが鳴る。

エミリー「あら、お迎えかしら?」

「じゃあ、行ってくるね」

パパ「ああ、楽しんでおいで。12時までには帰るんだぞ」

エミリーがおかしそうに笑う。

エミリー「12時が門限。まるでシンデレラね」

2人に見送られ、私は部屋を出た。


_________________


アパートメントの前に待っていたのは、
シンデレラのかぼちゃの馬車ではなく、ぴかぴかに磨かれたリムジンだった。

アレックス「どうぞ」

アレックスがごく自然に私の手を取る。

「ありがとうございます」

アレックスにエスコートされて、私はリムジンに乗り込む。


_______________

リムジンはゆっくり走り出す。
アレックスはゆったりとシートにもたれ、黙って前を見ている。

(何か話しかけたほうがいいのかな。でも、一体、何を話せば…?)

「今日のパーティー、楽しみですね」

アレックス「そう?」

なんだかそっけない返事が返ってくる。

「今日は誘っていただいてありがとうございます」

アレックス「感謝されるほどのこともないけど…」

「あの、どうして私なんかを誘ってくれたんですか?」

アレックス「別に深い意味はない」

アレックスはさらっと答える。

アレックス「強いて言えば、たまには日本料理を食うのもいいかな…ってね」

「日本料理?」

アレックスは少し目を細めて、観察するように私を見る。

アレックス「まさか、パーティーに行くだけで終わり…なんて、思ってないよね?」

「えっ?あの…」

アレックスの手が伸びてきて、私の顎をくいっと持ち上げる。

アレックス「今日は最後まで付き合ってもらうから」

「…やめて!」

私はアレックスの手を振り払う。

「私、そんなつもりで来たんじゃ…」

アレックスはふっと鼻で笑う。

アレックス「俺のこと、誰だかわかってるよな?」

「え?」

アレックスは薄く笑いながら私を見ている。
頭にかっと血が上ぼる。

「車を止めて!ここで降りるから」

アレックス「は?」

「私、あなたとはパーティーにはいかない。もちろんその後もないから」

アレックス「おい…」

「あなたが誰だろうと私には関係ない。王子なんて言われてちやほやされてるみたいだけど」
「なんでも自分の思い通りにできるなんて思わないで!」

私はアレックスをにらみつける。
アレックスはしばらく私を見つめ、やがてふっと笑う。

アレックス「俺が誰だろうと関係ない…いいね」

「え?」

アレックス「さっきのは冗談。俺はそんなに飢えてねーから」

「は?」

アレックス「悪かったよ。確かめてみたかったんだ、俺の目が正しいかどうかを」

「確かめる?」

アレックス「ああ」

アレックスは私の目を覗き込むようにして言う。

アレックス「あんたは、アッパーイーストの奴らとは違う、まともな女だ。俺の目に狂いはなかった」

「…」

アレックスにまっすぐ見つめられて、私は思わず、目をそらしてしまう。

アレックス「パーティーには付き合ってくれ」
     「せっかくの素敵なドレスを披露しないで帰るのは、もったいないだろう?」

「…わかったわ」

私がうなずくと、アレックスは小さく微笑んだ。


________________________


ナイトクラブが入っている建物に着きリムジンを降りると、マークとアイザックが近寄ってくる。

マーク「遅かったじゃん」

アレックス「なんだ。先に入ってればよかったのに」

どうやら2人とはここで待ち合わせをしていたらしい。

マーク「⚪︎⚪︎ちゃん、今日は一段ときれいだね。そのドレス、すごく似合ってる」

マークがいつもの明るいノリで言う。

「ありがとう。お世辞でも嬉しい」

マーク「お世辞なんかじゃないよ」
   「ほんと最高。ねぇ、アイザック」

アイザック「さあな…」

アイザックはちらっと私を見て、すぐに目をそらす。
この前、ホテルでのお義母さんとのやり取りを見てしまっただけに、
私の方も彼に対してちょっと構えてしまう。

アレックス「さ、行きますか」

アレックスの声を合図に私たちは会場へと向かった。


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「うわぁ…」

クラブに着くなり、私は思わず小さく声を上げてしまう。
アップテンポの音楽に合わせて、めまぐるしく変わる照明。
店内はすでにたくさんの人で身動きもとれないほどになっている。
ブレアがこちらに気づいて近づいてくる。

ブレア「ハイ!みんな」

マーク「ハイ、ブレア」

アレックス「なかなか盛況だね」

ブレア「ありがとう」

アイザック「アッパーイーストにはこんなに暇人がいるんだな」

ブレア「あなたもその1人でしょ?アイザック」

ブレアが私の方を見る。

ブレア「あなたも来たんだ…」

「ええ」

ブレアは私の頭の先からつま先まで素早く視線を走らせる。

(もしかしてファッションチェック?)

ブレア「ふーん」

どうやら「一応は合格」ということらしい。

(エミリーありがとう!)

私は心の中で叔母のエミリーにお礼を言う。

ブレア「奥にあなたたちの席があるわ」

マーク「それはどうも」

ブレア「じゃ、楽しんでいってね」

去っていくブレアを見送って、私たちは人の間をすり抜けるようにして店の奥へと移動する。

??の声「⚪︎⚪︎!」

名前を呼ばれて振り返ると、ジェニーが駆け寄ってくる。

ジェニー「すごいパーティーだよねー!」

ジェニーは両手で私の手を掴んで、ぴょんぴょん飛び跳ねるようにして言う。

ジェニー「こんなパーティーに来れるなんて、信じらんない。もう夢みたい!」

彼女はすっかり舞い上がってるみたいだ。

アイザック「行くぞ」

アイザックがマークにそう言って、さっさと歩き出す。

アレックス「じゃあ、俺たち先に行くから」

「あ、うん」

マーク「ジェニーだっけ?」

ジェニー「え?ええ」

マーク「よかったら、キミも後で俺たちの席においでよ」

ジェニー「ほんと?ありがとう」

マーク「じゃあ、待ってるから」

マークは私にもにっこり笑って見せてから、アレックスたちの後を追って奥の席へ行ってしまった。

ジェニー「やっぱりマークって、すごいね」

「え?」
ジェニー「この前、階段のところで一回会っただけなのに、ちゃんと私の名前覚えてる」
    「そういうマメなところがモテる理由なのかな」

「彼ってそんなにモテるんだ」

ジェニー「うん、有名だよ」  
    「あ、そうそう、それより、聞いて、聞いて!」

「なに?」
ジェニー「うちのお兄ちゃん、覚えてるでしょ?」

「ダン?」

ジェニー「そう。彼、なんと、今日、デートなの。しかも相手は…」

「セリーナ」

ジェニー「え?!なんで知ってるの?」

「セリーナから聞いた」

ジェニー「ああ、彼女から」

「一緒にライブに行くって」

ジェニー「ええ。うちのパパのライブ」

「パパ?え?あなたたちのパパってミュージシャンなの?」

ジェニー「リンカーン・ホークってバンドやってるの」
    「ローリングストーン誌が選ぶ忘れられた90年代のバンド第9位」
    「微妙だよね」

「リンカーン・ホークって…知ってる、私」

ジェニー「ホント?」

「うちのママが昔ファンだったって言ってた。家にCDもあったし、ライブも行ったことあるって…」

ジェニー「日本にもファンがいたなんて、パパが聞いたら泣いて喜ぶよ」

「うちのママも喜ぶと思う。リンカーン・ホークのメンバーの子供と友達になったなんて言ったら」

私たちは顔を見合わせて笑う。

「どうする?みんなの席に行く?」

ジェニー「うーん、私、もうちょっと、フロアのこの雰囲気楽しみたいから、後で…」

「わかった。じゃ」

ジェニーと別れ、私は奥の席へ向かう。

女の子「ねえ、ちょっと」

不意に女の子が私の肩を掴む。

「なに?」

少し酔っ払っているようで顔が赤い。

女の子「あんたがマークの新しい女?」

「え?」

女の子「どうやってマークをたらし込んだの?」

「ちょ、ちょっと待って…」

マークの声「メイシー!」

マークが私と彼女の間に割って入る。

マーク「なに、やってんの?」

メイシー「マーク、この女なんなの?あなたが日本で会った運命の女って言うのは」

マーク「え?あ、ああ…」

メイシーは携帯を取り出し、メール画面を開く。

メイシー「『日本で運命の女性に出会った。だから、もうキミとは付き合えない。今まで楽しかったよ、さようなら』」
    「…こんなメールひとりで終わりにできると思う?」

メイシーは目に涙を浮かべて、マークの顔を見つめる。

マーク「仕方ないよ」

マークはあっさりとした口調で答える。

マーク「キミと俺とはこうなる運命だったんだから。運命には逆らえない」

メイシー「運命…」

マーク「ほら、涙を拭いて」

マークはハンカチを出して、メイシーに渡す。

マーク「メイシー、キミは最高の女だよ。ほら、フロアを見なよ」

メイシーは言われるがまま、ダンスフロアを見る。

マーク「キミと恋に落ちたいと思ってる男たちが、ほら、あんなにいっぱいいるじゃん」
   「俺みたいなつまらない男にこだわってないで、一歩踏み出さなきゃ」

メイシー「私…」

マーク「ほら…」

マークが軽く背中を押すと、メイシーはふらふらとダンスフロアへと進んでいき、
すぐに話しかけてきた男の子と一緒に踊り始めた。

マーク「やれやれ」

マークは軽くため息をついてから、笑顔で私を見る。

マーク「ごめんね。迷惑かけて」

「ううん。マークって、やっぱりすごいよね」

マーク「すごい?」

「女の子の扱いがここまで上手い人、初めて見た」

マーク「それって、ほめてる?」

「一応…」

マーク「勘違いしないでよ。彼女とは本当になんでもないんだから」

「何でもない?本当に?」

マーク「ちょっとお互いの見識に相違があった…って、だけで」

「見識に相違ねぇ…」

マーク「さ、席は向こうだよ」

マークはさりげなく私の腰に手を回して、席へとエスコートをしてくれる。

(こういうことが自然にできちゃうのも…女の子を誤解させる原因かもね)


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マークと私が合流すると、アイザックが飲み物を取りに行ってくれた。
戻ってきた彼が私に尋ねる。

アイザック「さっき、話してた子、新入生か?」

「ジェニー?ええ、そうよ」

アイザック「向こうのフロアで、チャックとべったり踊ってた」

「チャックと?」

アレックス「そりゃ、まずいな」

マーク「チャックの今日の獲物か」

「どういう意味?」

アレックス「チャックの女癖の悪さは有名だから」

マーク「女とみれば、手当たり次第、県境なし」

アイザック「それはおまえと同じだな」

マーク「おい!」

私は慌てて席から立ち上がる。

アレックス「どうした?」

「ジェニーを探してくる」

アレックス「は?」

マーク「そこまでしなくても…」

「でも…」

不意にフロアがざわつく。
店に入ってきたのはセリーナとダン。
「セリーナよ」「呼ばれてもいないのに、パーティーに?」
などと、みんなが口々にささやき合う。
セリーナたちは誰かを探すように、あたりをきょろきょろと見回す。

「セリーナ!ダン!」

私は2人のところに駆け寄る。

セリーナ「ジェニーを見なかった?」

ダン「あいつからSOSのメールが来たんだ」

「SOSって、やっぱりチャックが?」

セリーナ「見たの?」

「アイザックが…」

セリーナ「急いで探さなきゃ」

ダン「ああ」

「私も一緒に探すわ」

セリーナ「ありがとう」

フロアを探し回ったけれど、ジェニーの姿はない。
セリーナとダンも姿が見えなくなってしまった。

(どうしよう…)

フロアに立ちすくんでいると、アレックスとマーク、アイザックが近寄ってくる。

アレックス「どこにもいないな」

どうやら3人もジェニーを探してくれていたようだ。

「お店を出たのかな」

マーク「もしかしたら、上かも」

「上?」

マーク「奥の階段を上がると、屋上に出られる」
   「この店で女の子と2人きりになれる場所って言ったら、そこぐらいかな」

アレックス「さすが、詳しいな」

マーク「どうも」

私たちは階段へと向かう。


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屋上のドアを開けると、ダンがジェニーの肩を抱くようにして歩いてきた。

ダン「ジェニー、大丈夫か?」

ジェニー「平気」

ジェニーは笑顔を作ってみせる。
何か言い争う声が聞こえてくる。

セリーナ「チャック、二度とジェニーに触んないで!」

チャック「おまえはもう終わりだ、クソ女!俺は全部知ってるんだからな!」

セリーナはチャックに背を向けて、歩いてくる。

「セリーナ」

セリーナははっとしたように顔を上げる。

セリーナ「ジェニーを送ってくる。また連絡するね」

「うん」

私はセリーナを見送る。

チャック「なんだ、おまえは」

チャックが私をにらみつけた。
どうやら殴られたらしく、頰が腫れ、口の端には血がにじんでいる。

チャック「もしかして、おまえがセリーナにチクったのか?」

「え?」

チャックが私を詰め寄ろうとする。

アレックス「やめろ。彼女は俺の連れだ」

チャック「王子の?」

アイザック「しばらく見ない間に、ずいぶんイケメンになったな、チャック」

チャック「くっ」

チャックは殴られた頬を手で隠す。

マーク「早く冷やしたほうがいいんじゃない?その顔じゃ、この店のドレスコードに引っかかるよ」

チャック「黙れ!」

チャックは私たちを押しのけるようにして去っていく。

マーク「さ、飲み直しますか」

マークに促されて、私たちは席に戻った。


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私は席を離れて、ひとりぼんやりと賑やかなダンスフロアを眺める。
さっきのジェニーの騒ぎなどなかったかのように、陽気に盛り上がる人たち。
ふと、さっきチャックがセリーナに言った言葉を思い出す。


チャック「おまえはもう終わりだ、クソ女!俺は全部知ってるんだからな!」


セリーナは何か秘密を抱えて、ひとりで苦しんでいるのかもしれない。

(もしかしたら彼女だけじゃなく、ここで楽しそうに踊っている人たちもみんな…)

気づくともう11時を過ぎている。

(そろそろ帰らないと…)

??の声「帰るんだったら、送って行くよ」

その声に私はゆっくりと振り返る。




SS 左手薬指のリング


SS 左手薬指のリング


買い物を終えて店を出ようとしたとき、ブロンドの女の子とすれ違った。
私はふとセリーナのことを思い出す。
セリーナは同じ学校のはずなのだけど、まだ校内で会っていない。
ここから彼女が住むパレスホテルまではそう遠くない。


(いるかどうかわからないけど、会いに行ってみよう)





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ホテルのコンシェルジュに尋ねると『セリーナは外出中』との返事が返ってくる。


コンシェルジュ「お待ちになりますか?」


「すぐに戻ってくるのかな?」


コンシェルジュ「さあ?半年戻られなかったこともありますが…」


「半年?!」


驚いて聞き返しても、コンシェルジュは生真面目な顔を崩さない。
どうやら冗談ではないみたいだ。


(買い物で疲れたし、お茶でもしながら少しだけ待ってみようかな)


私はロビーが見渡せるコーヒーショップに向かった。





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アールグレイをオーダーしてから、店内を見渡していると、奥の席に座っている女の人に目が止まる。
20代半ばぐらいのセクシーな美人で、胸元には遠くから見てもわかるような
大きなダイアモンドのネックレスが光っている。
彼女の前に座っているのは若い男の人。


(えっ?!)


それはアイザックだった。
一瞬、彼がこちらを見た気がして、私は慌てて他のお客さんの陰に隠れる。
どうやら気づかれなかったみたいだ。


(そういえば、前もこのホテルで彼と会ったんだっけ…)





アイザック「立ち聞きとは悪趣味だな」



(どうしよう、見つかる前に出ようかな…)


迷っているところに、タイミング悪くウエイターがやってくる。


ウエイター「お待たせしました。アールグレイティーです」


「あ、ありがとう…」


ウエイターはカップにお茶をカップに注ぐと、にっこり笑って去って行った。
仕方ない…とお茶を飲み始めたものの、つい気になって、
アイザックたちの方をちらちら見てしまう。
彼女の方はにこやかにアイザックにあれこれ話しかけている。
アイザックの方はいつ通りクールな表情だけど、
2人の間には親密な雰囲気が漂っているように見える。


(アイザックの彼女なのかな…?年上だよね)


彼女の方がバッグを手に取り、中から何かを出してアイザックの前に置く。
それは表に何か書かれた細長い紙切れ。


(小切手?)


アイザックはその紙切れをろくに見ないで、すぐ自分のポケットにしまった。
二言三言、言葉を交わし、2人は席から立ち上がる。
アイザックはこちらには気づかず、そのまま彼女をエスコートして席を出て行った。


(ホテルで会って、小切手渡すって…一体どういう関係?)


なんだか見てはいけないものを見てしまった気がする。
私は冷めてしまったアールグレイティーを飲み干して、席を立った。





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(セリーナ、帰って来てるかな?)


もう一度聞いてみようと、コンシェルジュのところへ歩いて行くと、
ふらりと前に人が立ちはだかる。


「あ…」


アイザック「立ち聞きの次は、のぞきか」


やっぱりコーヒーショップにいたのを気づかれていたらしい。


アイザック「ほんと、悪趣味な女だな」


「は?そんな人聞きの悪い事言わないでよ!別にわざとじゃないし」
「たまたまお茶をしに入ったら、あなたがいただけで…」


アイザック「ふーん」


「だいたい、人に見られて困るようなことしてる方が悪いんだし」


アイザック「見られて困るようなこと?」


「あ…」


(まずいこと、言っちゃった…)


アイザック「何が言いたいんだ?」


アイザックがじろりと私の顔を見る。


「いや、あの…」


??の声「アイザック?」


現れたのは、さっきアイザックと一緒だった年上の美女。


年上美女「まだ帰ってなかったのね、よかった」


彼女はちらりと私の方を見る。


年上美女「どなたかしら?もしかしてアイザックの彼女?」


「は?いや、ち、違います、私…」


アイザック「冗談はやめてくれ」


アイザックが吐き捨てるように言う。


年上美女「あら、だってかわいいお嬢さんじゃない?」
そう言って、彼女は私に微笑みかける。
つい見とれてしまうような色っぽい表情だ。


アイザック「俺はガキには興味が無い」


年上美女「あら、そうなの?」


(ガキって…)


ちょっとむっとしたけれど、言い返す言葉はない。


(そりゃ、こんな人と付き合ってたら、私なんてガキにしかみえないよね…)


「私、失礼します…」


そう言って2人から離れようとしたとき、セリーナがエントランスに入ってくるのが見えた。


「○○!」


セリーナもすぐ私に気づいて、こちらに駆け寄ってくる。


セリーナ「会いに来てくれたんだ。うれしい!」


「うん。近くで買い物してたから」


セリーナ「ハイ、アイザック」


アイザック「おう」


セリーナはアイザックの隣の美女の顔を見て、少し考えるそぶりをする。


セリーナ「えっと…」
    「あ!サマンサよね?確か、アイザックの…」


サマンサ「覚えててくれたんだ。前に会ったのはかなり前よね」


セリーナ「ええ、私、しばらくニューヨークを離れてたの」


どうやら2人も顔見知りらしい。


サマンサ「じゃあ、報告はまだね?」


セリーナ「報告?」


サマンサはセリーナに左手を見せる。
薬指にはリングが光っている。


セリーナ「結婚したのね!おめでとう」


サマンサ「ありがとう」


サマンサはセリーナにお礼を言ってから、隣のアイザックに微笑みかける。


「え?結婚してるんですか、2人?」


私は驚いて、アイザックとサマンサの顔を見る。


(高校生が年上の女性と結婚…これも、アッパーイーストじゃ普通のことなの?)


セリーナ「○○…」


セリーナがなんだか複雑な顔で私を見る。


サマンサ「…やだ」


サマンサがふっと吹き出す。

「え?何?」


アイザック「おまえ、何勘違いしてるんだ」


「は?」


アイザック「サマンサは俺の親父の結婚相手だ」


「えっ?お父さんの?」


サマンサとセリーナがこらえきれないと言うように笑い出す。
自分の顔に血が上って、赤くなっていくのが分かる。


「す、すみません。私…」


サマンサ「いいの、いいの」


サマンサが笑いながら答える。


サマンサ「それよりアイザック、『おやじの結婚相手』なんてずいぶん他人行儀な言い方ね」
    「私はあなたのお母さんなんだけど」


アイザックはふっと鼻で笑う。


アイザック「無理すんなよ」


サマンサ「え?」


アイザック「俺に媚び売ってるヒマがあったら、親父に飽きられないようにせいぜい努力した方がいい」
     「あんたの代わりの女なんて、親父のまわりにいくらでもいるんだから」


サマンサの顔がさっと青ざめる。


セリーナ「ちょっとアイザック!」


サマンサ「いいのよ、セリーナ」


セリーナを遮り、サマンサはアイザックの方に向き直る。


サマンサ「私のこと、母親扱いしないんなら、さっき渡した小切手返してくれる」


アイザック「は?」


アイザックは驚いたようにサマンサを見る。


サマンサ「『息子の生活費を管理するのは母親の仕事だ』」
    「って。あなたのお父さんから私が頼まれたんだから」


アイザック「ちょっと待てよ、おい…」


しばらくにらみ合って、サマンサがふっと吹き出す。


サマンサ「冗談よ」


アイザック「は?」


サマンサ「あ、でも、本当にさっきの小切手は返して」


そう言って、サマンサはバッグから別の小切手を取り出す。


サマンサ「間違って、額面が違うものをあなたに渡したの」
    「ちなみにこっちの方が500ドル高いわよ」


露骨に金額の話をするサマンサに、アイザックは不快そうに顔をしかめる。


サマンサ「さ、どうぞ」


アイザックはむっとした顔のまま、ポケットから小切手を取り出し、サマンサの物と交換する。


サマンサ「じゃあ、また来月ね。かわいい坊や」


アイザックは返事もせず、くるりと背を向けて、歩き去っていった。





________________________________



サマンサと別れた後、セリーナに連れられてホテルのバーに行った。
セリーナがカウンターに座ると、なにも言ってないのにドリンクが出てくる。


セリーナ「ほとんど毎日、ここに来てるから」


「そうなの?」


「一緒にどう?」と誘われた私はコーラを一杯頼んだ。


セリーナ「それ、なに買ってきたの?」


セリーナが私の買い物袋を見て言う。


「ドレス。『キス・オン・ザ・リップス』パーティーで着ようと思って」


セリーナ「いくんだ、あのパーティー?」


セリーナの顔が少しだけこわばる。


「…うん、一応、誘われて」


私はアレックスたちに誘われた経緯を話す。


セリーナ「王子の誘いじゃ、断るわけにはいかないわね」


「正直、ちょっと気が進まないんだけどね」


セリーナ「なんで?」


「やっぱり、私なんかが行ったら場違いな気がして」


セリーナ「そんなことないよ」


セリーナは優しく微笑む。


セリーナ「それに行って損はないと思う」


「え?」


セリーナ「ブレアが開くパーティーに人気があるのは、やっぱり面白いメンバーが集まるから」
    「きっと○○が仲良くなれる子もいると思う。友達、作りたいでしょ?」






「友達か…、そうだよね」


(彼らと仲良くってちょっと想像できないけど…)


セリーナ「楽しんでおいでよ」


「え?セリーナはパーティー、行かないの?」


セリーナ「私?あ、うん、別の予定が…」


セリーナの表情が少しだけ硬くなる。


「別の?」


セリーナ「ライブに行くの、ダン・ハンフリーと」


「ダン・ハンフリーって、ジェニーのお兄さんの?」


セリーナ「知ってるの?ダンとジェニーを?」


「うん、ちょっとね。セリーナはどうしてダンと?」


ブルックリンで会ったときは、ダンはセリーナとは知り合いだとは言ってなかったはずだ。


セリーナ「私、昨日もここに来ていて、うっかり携帯なくしちゃったの」
    「それを今日、ダンが届けてくれて」


「へぇ」


セリーナ「で、彼がライブに誘ってくれたの」


「ちょっと意外だな。ダンとセリーナがデートって…」


セリーナ「うん。私もびっくり」


「え?」


セリーナ「まあ、正直言っちゃうと、『キス・オン・ザ・リップス』パーティーに行きたくないから」
    「彼に無理やり誘ってもらった…って感じかな」


「行きたくないから?」


セリーナ「私、ブレアとうまくいってないんだよね、なんとなく」


セリーナはグラスに一口、口をつけて、ふっと息をつく。


セリーナ「昨日もここで一緒に話したんだけど…まだ、スッキリしないって言うか…」


「そうなんだ…」


私はホテルの前で見かけた、セリーナとブレアの彼・ネイトとの会話を思い出す。



ネイト「戻ったんだろう?」
セリーナ「あなたのためにじゃない」
    「ブレアは親友なの。あなたはその彼氏で、愛されてる。それで丸く収まるの」



(もしかして、ブレアとうまくいっていない原因って…)


セリーナ「一年前の私は最低な女だったの」


「え?」


セリーナ「私が何をしてきたか話したら、きっと、○○も私のこと軽蔑すると思う」


「そんなことないよ…」


セリーナ「最低な自分がイヤでニューヨークから逃げ出して、一年かかって、やっと戻ってくる決心がついた」


「セリーナ…」


セリーナ「私、変わりたいんだ。昔の自分とは違う、新しい自分になりたい…」


セリーナは空になったグラスを見つめる。


「私はセリーナのこと、強くて優しい人だ…って思う」


セリーナ「え?」


「それってたぶん、セリーナが色々、辛いこととか苦しいこととか、乗り越えてきたから」

「セリーナはもう新しい自分になってると思う」


セリーナの伏せたまつげが小さく震える。


「私、ニューヨークで最初に出来た友達がセリーナでよかったって思ってる」


セリーナ「○○…」


セリーナはゆっくりと顔を上げ、私の方を見る。
その目にかすかな微笑みが浮かぶ。


セリーナ「もう1杯飲む?」


「え?」


いつの間にか私のコーラも空になっている。


「じゃあ、もう1杯」


セリーナ「私も。次はコーラにしようっと」


私たちはお代わりのコーラを頼んで、2人の友情に乾杯した。





夢回南朝をはじめてみた!!!

お久しぶりですヽ(・∀・)ノ 1年前購入したBloggerのアプリ使おうとすると なぜか落ちてしまいイライラ。 ということでPCから更新! 画像がめんどくさー 実は今絶賛ゲームにハマり中(*´艸`) 今までやってたゲームは今はやってなくて (でも...