第12話 夢の決着(前編)
報告があるというセリーナに呼び出され、
ブレアと私はパレスホテルのコーヒーショップへ集まっていた。
ブレア「で、その報告って何?」
セリーナ「それがね…」
ダンとの何かいい報告かと期待して来たものの、セリーナの表情は思わしくない。
「…ダンと、何かあった?」
セリーナ「ううん、ダンとはうまくいってるよ」
「でもって、さらに…うまくいっちゃったのが、うちのママ」
ブレア「リリーがどうかした?」
セリーナ「婚約したの」
「え、素敵じゃない!どうしてそんな困った顔してるの」
セリーナ「だって相手、チャックのお父さんだよ?」
(え…)
ブレア「チャックと兄妹になるんだ?!」
「なんかちょっと笑っちゃう」
セリーナはブレアをちょっと睨んで、はぁっとため息をつく。
セリーナ「ママが再婚して幸せになるのは嬉しいけど、よりによってチャックが身内になるなんて」
チャックのお父さんといえば、世界中にホテルやレストランを展開する不動産王。
現在のセリーナの仮住まいであるパレスホテルも、彼の所有するホテルだ。
ブレア「たしかにビッグニュースだったわ。じゃあ、私からも一つ報告」
(…ひょっとして、チャックとのことかな?)
私はあの日見た二人のキスの真相が、いまだ気がかりだった。
ブレア「なんと、体重が600グラム減ったの!」
「…なんだ」
ブレア「なんだって言い方はないでしょ?」
セリーナ「でもブレア十分スリムなのに」
ブレア「ダメ、ママはセリーナみたいなプロモーションを目指しなさいって言ってる」
「悔しいけどセリーナにはまだほど遠いわ」
そういってブレアはノンシュガーラテを一口飲んだ。
ブレア「次は⚪︎⚪︎の番よ。何かニュースある?」
ニュースというほどではないかもしれないけど、二人に相談したいことは抱えていた。
「…こないだマークに、映画のプレミアに一緒に行こうって誘われたけど」
セリーナ「すごいじゃない!」
ブレア「なんて映画?」
「ビフォアー・アースだって」
ブレア「超大作だよ」
セリーナ「マークとレッドカーペット歩くんだー?」
セリーナは嬉しそうに頬をほころばせるも、私の浮かない顔を見て不思議そうに首をかしげる。
セリーナ「どうした?」
「なんで私を誘ってくれたのか、よくわからなくて」
ブレア「そんなの決まってるでしょ」
「奥さんだったり恋人だったり、一番大切な人を連れて歩くのがレッドカーペットよ」
「私たちそういう関係じゃないし」
セリーナ「今はそうでなくてもこれからってことだって」
私は首を横に振った。
「実は私…こないだレオンから告白されたんだけど」
セリーナ「あら…」
「そのこと知ったマークに、2人を応援するって笑顔で言われたんだよ」
「これからどうとか思ってたら、そんなこと言わないでしょ?」
ブレア「どうかしら。応援する…それって本心かな」
セリーナ「本心じゃないかも。応援にもいろんなスタンスがあるんでしょ」
「スタンス…?」
セリーナ「⚪︎⚪︎ー、がんばれーって拳をあげる応援もあれば」
「⚪︎⚪︎の幸せを思ってそっと背中を押すって応援もある」
ブレア「どっちなのかマークに確かめてみたら?」
「そんなことできないよ。それに、何とも思ってないと思うし…」
セリーナは私の顔を覗き込むようにして見る。
セリーナ「もう完全に大好きって感じの顔してる」
「え…」
セリーナ「私も今はわかるよその気持ち」
「ダンと出会って気づいたの、本当の恋をすると人って驚くくらい臆病になるんだよね」
ブレア「セリーナの口からそんな言葉が聞けるとは」
セリーナ「自分でもびっくりだよ」
「でもたぶん、こういう時はどうしていいかすらわからなくなってる。⚪︎⚪︎、そうでしょ?」
「…うん」
すると、ブレアが何か思いついたようにニコリと笑みを浮かべる。
ブレア「私たちのバックアップがいるんじゃない?」
セリーナ「そうだよ」
ブレア「プレミアに着ていくドレス、まだ決めてないでしょ?」
「まだ、全然」
ブレアとセリーナは顔を見合わせ、同時に言った。
2人「私たちに任せて」
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マークが⚪︎⚪︎をプレミアムへ誘う2時間前…
レオン「…マーク」
バーで一人でグラスを傾けるレオンの隣に、マークが静かに腰を下ろした。
マーク「さっきまでアイザックたちとクラブで飲んでて…」
レオン「退屈になったのか?」
マーク「いや、レオンならきっとここにいるだろうと思って…来てみた」
レオン「…そんなに俺に会いたかったわけか」
バーテンダー「何になさいますか?ジョーンズ様。いつものブランデーで?」
マーク「今日は…ブランデー色のコーラにする」
バーテンダーは少し驚いたようにして小さく頷く。
バーテンダー「かしこまりました」
レオンがマークの方を不思議そうに見やる。
マーク「いや、最近、優等生とずっといたから」
レオンはフッと笑い、コーラを受け取るマークの横で、味気ないウイスキーを飲む。
2人の間にいつになく流れる長い沈黙を、マークが破った。
マーク「俺…⚪︎⚪︎が好きだわ」
レオン「…だろうな」
マークはハッとしたように隣を見る。
レオンは前を向いたままグラスをくゆらせ、口元を緩める。
レオン「そんなマーク、見たことないから…わかってた」
マーク「…」
レオン「あの子が待ってるのは、俺じゃなくてマークだから…遠慮するな」
マーク「…うん」
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映画のプレミア当日。
我が家は三人の美女で大にぎわい。
エミリー「まあ素敵!これってエレノアの新作よね?」
ブレア「そうです。ままに言ってもらってきたんで」
エミリー「⚪︎⚪︎もいいお友達をもったもんだわー」
「マイクに向かってきちんとブランド名を言うのよ?」
「え?どういう意味?」
エミリー「レッドカーペットでブランド名を聞かれるから、ちゃんと答えなさい」
「デザイナーへの感謝の気持ちをそこまで表すの」
ブレア「ママは宣伝になるって大喜びだったわ」
「なるほど、そういうことね。任せて!」
セリーナが大ぶりのネックレスを私の胸元に当てる。
セリーナ「アクセはこれでどうかしら」
エミリー「最高よセリーナ!トニー・バーチね。⚪︎⚪︎の初々しい雰囲気にぴったり!」
3人は私の周りをぐるぐるまわりながら、どんどんコーディネートを進めていく。
そこへ、パパがおずおずと近づいてくる。
パパ「恵美子、こないだ貸した本のことだけど…」
エミリー「あとはヘアスタイルをどうするかよね」
ブレア「フレンチロールアップなんか似合いそうだけど」
エミリー「ブレア、いいアイデアね」
ドレッサーの前に座らされ、今度はヘアメイクが始まった。
パパ「あの…本は」
エミリー「もう兄貴ってば邪魔しないでよ。本ならそこよ」
パパ「ああ、これか。もう読み終わったのか、早いな」
エミリー「読むわけないでしょ。トートにシワが付いてたからプレスしようと思って重石代わかりに使っただけ」
パパ「おまえが珍しく分厚い本を借りて行ったと思ったら…」
エミリーは喋りながらもテキパキと手を動かし続け、あっという間に神は美しくアップされた。
エミリー「できあがりー」
「ありがとうエミリー!」
セリーナ「レッドカーペット、楽しんできて」
ブレア「女優気分でね」
「セリーナとブレアも、ほんとありがと」
その時、
ピンポーン♪
チャイム音に、みな一斉に色めき立つ。
エミリー「王子様のご登場ね」
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ドアを開けると、マークは驚いた様子で私を見据える。
マーク「…」
マークからは見えない廊下の角から、エミリーたちがこちらを見守っている。
「えっと…」
マーク「すっごく綺麗」
マークは見とれるような目をして、ため息まじりにそう言った。
「…ありがと」
廊下の奥で、エミリーがハイタッチをして喜び合う。
(みんなのおかげだな…)
私は3人の方を見て微笑んだ。
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マークにエスコートされ、リムジンに乗り込む。
マークは少し緊張した面持ちで運転手に発車を促す。
私もどこか、緊張で身を硬くしていた。
(マークにエスコートされるのって、よく考えると初めてなんだな)
キス・オン・ザ・リップス・パーティー、仮面舞踏会、デビュタント舞踏会…
いろんなパーティーに参加したけれど、隣でエスコートするのは別の男性だった。
マーク「あれから、進路の件どうなった?」
「うん。パパだけじゃなくてエミリーも応援してくれて」
「最近はスタイリストの仕事現場を見学させてもらったりしてるの」
マーク「へえ、すごいじゃん。ちゃんと夢に向かって前進してる」
「マークはどんな感じ?」
マーク「俺は…」
マークは少し言い淀んだ。
(前に大丈夫だって笑ってたけど、やっぱり一筋縄ではいかないだろうしな…)
私は何も言わず、マークの言葉を待った。
するとマークは小さくため息をつき、私の方を見る。
「…」
その瞳は、吸い込まれそうなほどに強く澄んでいる。
マーク「見てて」
「え?」
マーク「今日で、はっきりさせるから」
マークのまっすぐな眼差しは、静かな決意に満ちていた。
To Be Continued….
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