第14話 別れの朝(後編)
SATも終わり、11年生の表情にも明るさが戻る。
でも私は、依然として心の中にモヤがかかっていたままだった。
学校が終わり、私はなんとなく家に帰る気になれないまま、街へ繰り出す。
いまだに、マークにフラれた理由が腑に落ちない。
(でも…フラれたには変わりないんだよね)
(自分が未練がましい女みたいでイヤになってくる…)
ぼんやり街を歩いていると、後ろから声をかけられる。
??「ひとりで寂しそうだな」
振り返ると、チャックが射るようにこちらを見据えている。
チャック「買い物に付き合ってやろうか?そんな風にひとりで歩いてたら、男に誘われるのを待ってるみたいだぞ」
「ひとりの方がずっといいよ。チャックに誘われるくらいなら」
チャックはフッと口元を弛ませる。
チャック「おまえ、マークにフラれたらしいな」
「…」
チャック「だから忠告しただろ?」
「…ほっといて」
チャック「この街のルールを最初に教えてやったのに、おまえは少し舞い上がりすぎた」
「この街のルールって何?」
チャック「永遠の愛など存在しないってことさ。供給過多な男は、一人の女に長い間かまっていられない」
「ましてやおまえのようなガキにはな」
「チャックにそんなこと言われたくない!」
チャック「おや、怒らせたか」
「愛してる人に愛してると伝えられず、大切なものを守ることもできずに…」
「私はずっと逃げてるように見えるよ、チャック…」
チャックの顔色が一変した。
チャック「…なんのことだ」
「ブレアの誕生日プレゼントを探しに街を歩いてた時、ジュエリーショプから出てきたチャックを見かけたの」
「その時まさに私が向かおうとしていた、ブレアの欲しい物リストを置いてあるお店だった」
チャック「…」
「あの時はただの偶然かもって思ったけど、誕生日会の夜」
「ブレアとチャックがキスしてるのを、私見ちゃったんだよね」
「その時、ベッドの上にあった紙袋…あれはあの時のお店の紙袋だった」
「ブレアの欲しい物リストから、プレゼントを買ってあげたんだね」
チャック「ただの…偶然だ」
チャックは動揺したように視線をそらす。
「別に認めなくていいよ。チャックはそういう人だろうから。でもね、マークは違うんだよ」
「あなたが言うような、人を弄んで捨てるような人じゃない」
チャック「…じゃあ、なぜフラれた」
「わからないよ!わからないけど、受け入れなきゃいけないの!」
「きっと、理由がわからないとこが、私のダメなとこなんだろうね」
「そういう鈍感なところがダメだったんだろうね…でも、マークのことは悪く言わないで」
「マークは…そういう人じゃないから…」
言いながら、涙が溢れそうになるのを必死にこらえる。
チャックはしばらく無言のまま立ち尽くし、やがてボソッとこぼす。
チャック「お前の言う…とおりかもしれない」
そういうと、チャックは悲しげな表情で去っていった。
チャックに向かってむいた私の牙は、結局、自分に向かって襲いかかることになり、
私は一睡もできないまま、翌朝を迎えた。
土曜日だというのにすでにパパは出勤していて、誰もいないリビング。
私は冷蔵庫を開け、オレンジジュースを取り出す。
「はぁ…」
朝から暗い溜息を吐き、ジュースをコップに注いでいると、インターフォンが鳴る。
(…こんな朝早くに、誰だろ)
受話器を取った。
「はい」
レオン「あ…俺」
(えっ?!なんでレオンが)
「レオン…ちょ、ちょっと待って…」
私は慌ててカーディガンを羽織り、ドアを開ける。
すると、レオンは真剣な表情で口を開く。
レオン「行くぞ」
「え?どこに?」
レオン「マークのところだ」
「冗談はやめて。まだ朝の8時だよ」
レオン「冗談ではない」
「だって…私たち別れたの知ってるよね?」
レオン「聞いてくれ。こないだマークと話したんだ…」
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昼休み、レオンは屋上のベンチで一人、空を眺めるマークを見つける。
レオン「マーク…」
マーク「やあ、レオン」
ベンチに置かれたベーグルサンドには、まだ手がつけられていない。
レオン「ちゃんと食べてるのか?最近…痩せたみたいだけど」
マーク「うん、大丈夫」
「あ、これ、よかったら食べる?」
「ここの美味しいんだよねー。特にこのドライトマトのオイル漬けが好きで」
レオン「好きならなぜ食べないんだ」
マーク「買ったはいいけど今日はそんなに食欲がないことに気づいて…」
レオンは何か考えるように一呼吸おくと、マークに真剣な眼差しを向ける。
レオン「…好きなら、あきらめるな」
マーク「そんなに気合い入れて食べるものか、ベーグルサ…」
レオン「ベーグルサンドの話をしてるんじゃない」
マーク「…」
レオン「どうしてあきらめる。どうして好きなのに…手放したりするんだ?」
マーク「…好きだよ、すっごく」
「でも、俺と一緒にいさせられない。⚪︎⚪︎をこんな世界に連れて来ちゃダメなんだ」
レオン「身を…引いたのか」
マーク「⚪︎⚪︎を守るために…今の俺ができることは、これしかなかった…」
マークの脳裏に浮かぶのは、⚪︎⚪︎のやわらかな笑顔。
感謝祭の日、作った料理を家族に振る舞う⚪︎⚪︎。
街で、アイスクリームを2人で分け合って食べた時の嬉しそうな⚪︎⚪︎。
マーク「…俺のそばにいて欲しいけど、そうすれば⚪︎⚪︎の笑顔が…失われていくんだ」
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レオンはマークの言葉を私に伝え終わると、力強く私を見据える。
レオン「マークと⚪︎⚪︎がこのまま離れてしまうのを…俺は、見ていられない」
「…」
レオン「今日、マークがパリに発つ」
「え、今日だったの!?知らなかった…」
レオン「言えなかったんだろ…⚪︎⚪︎の顔を見たら、決断が揺らぎそうで」
「…」
レオン「12時の便だ…強から行けば間に似合う」
私はレオンとともに、急いで空港へやってきた。
(マーク…会いたいよ)
いろんなマークの言葉が胸に蘇る。
マーク「俺が好きな世界、きっとわかってくれると思ったから」
マーク「この子を君らみたいな汚い人間と一緒にしないでくれるかな?」
マーク「ちゃんと言うね…俺…⚪︎⚪︎が好きだよ」
(マークと一緒なら…どんな壁だって乗り越えられるはず)
出発ロビーに到着。
マークの姿は見つからず、私たちは出発便のエアラインを確認しようとボードを見上げる。
(…え?)
12時にパリに発つ便は、見当たらなかった。
(レオンが私に時間を伝えること…予期してた?)
マークがレオンに違う時間を教えていたと知り、その別れの決意の固さを思い知らされる。
隣で、偶然と佇むレオン。
「誰にも…止められたくなかったんだね…」
そう言った途端、涙がポロポロと私の頬を伝っては落ちていく。
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重い足取りで帰宅すると、郵便受けに一通の封筒が入っていた。
それを手に取り、私はハッとなる。
送り主は…マーク。
手紙を開く。
『離れてもずっと応援してる』
『だから、お互い頑張ろう。いまの俺じゃ、⚪︎⚪︎を笑顔にできそうにない」』
(もう…本当に、戻ることはないんだ…)
私は手紙を握りしめ、とめどなく溢れ出す涙を拭いもせず、ただ、立ち尽くしていた。
To Be Continued…..
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