「え…パリ?!」
思ったより声が出てしまい、私は慌てて口をふさぐ。
マーク「そう、一緒にどうかと思って」
マークと私は、残り少ない夏休みをどう過ごそうか、カフェで相談していた。
マーク「案内したいところがいっぱいあるんだよね」
「留学してる間、綺麗な場所とか面白いスポット見つけるたび」
「⚪︎⚪︎を連れて来たいなって、そればっかり思ってた」
「うれしいな…」
頭に浮かぶのは、エッフェル搭やシャンゼリゼの石畳。
飛び交うフランス語に、街行くお洒落な女の子。
「パリかぁ…いいね」
と、次の瞬間、頭の中のパリの街並みに突然パパが登場。
(忘れてた…!)
マーク「…ん?どうした?」
顔色を変えた私を心配そうにのぞこきこむマーク。
「最大の難関、パパを突破しないことには…海外旅行なんて門限どころの話じゃないし」
マークは腕組みをして宙を見上げる。
マーク「そうだった…」
するとしばらくして、何か思いついたようにハッと私を見る。
マーク「俺が一緒にお願いしに行ってもいい?」
「え?!」
マーク「⚪︎⚪︎の安全を守るって、俺が説得する!」
(パパ、マークびいきだから私が説得するよりは効果ありそうだけど、大丈夫かな…)
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早速、私はマークを連れて家へ向かい、仕事から帰ってきたパパを待ち受ける。
「パパ、おかえり!」
マーク「おかえりなさい」
マークまで出迎えてきたことにパパは驚きながらも頬をほころばせた。
パパ「やあ、マーク。来てたんだね。元気かい?」
マーク「はい、お父さんも元気ですか?」
パパ「最近仕事が忙しくてね、少々疲れ気味だよ」
マーク「ならちょうど良かった」
そういってマークが手を差し向けたテーブルを見て、パパは目を丸くする。
ダイニングテーブルに所狭しと並んだたくさんの料理。
パパ「…どうしたんだ?これは」
「パパの好きなメニューを取り揃えてみたの。ほら、最近できた日本食のお店、パパ行きたがってたでしょ?」
「そこ、お店のメニューがデリバリーできるから、頼んでみたってわけ」
パパは嬉しそうに頷くも私たちを見て怪訝そうに眉をひそめる。
パパ「ふたりとも、そういうのを張り付いた笑顔というんだぞ」
「え?な、なんのこと?」
パパ「さては何か…裏があるな?」
「そんなこと言わないで、とりあえず食べようよ、ね?ハイ、上着は私が」
マーク「俺はカバンを預かります」
甲斐甲斐しく世話をする私たちにパパは首を傾げながらも、席に着いた。
「いただきまーす。わ、サバの塩焼きおいしい」
マーク「トーフハンバーグもおいしいね」
パパは黙々と食べ始め、しばらくしてお箸を置いた。
パパ「この店の料理が上手いのはよくわかった。で、君たちの要求は何かな?」
マークはお箸を置くと、まっすぐにパパを見据える。
マーク「残りの夏休みを利用して…⚪︎⚪︎をパリに連れて行きたいと思っています」
「その許可を、頂けないかと…」
パパ「パリ…マンハッタンにあるフランス菓子の店名にそんなのがあったけど、そこのことかな?」
「そんなわけないでしょ!」
パパ「だろうな」
マーク「⚪︎⚪︎の安全は、俺が必ず守ります」
「治安の悪いエリアには近づきませんし、危険を伴うような行動は一切しませんので…」
「お願いします!」
パパは大きく息をつき、顎に手を当てる。
パパ「その…なんだ。部屋は…どうする」
マーク「ムーリスかフーケッツを考えています」
「フランスでもパラスと呼ばれる最高位のホテルですので、安全性も…」
パパ「いや、その…あれだ。2人は、同じ部屋なのか?」
マークは慌てて首を横に振る。
マーク「い、いえ、もちろん別々です!」
パパ「…そうか」
パパはホッとしたようにお茶を飲むと、小さく息を吐く。
パパ「まあ、この夏は⚪︎⚪︎もインターン研修で頑張ってたみたいだし」
「マークも留学で勉強尽くしだったろうから…」
「2人で楽しんでくるといい」
「やったー!ありがとう、パパ」
マーク「ありがとうございます!」
私たちは手を取り合って喜んだ。
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パパの了解を得た私たちは、とうとう出発当日を迎える。
マークの家のハイヤーがうちのアパートメント前までやってきた。
マーク「荷物はこれだけ?」
「うん、ありがとう」
運転手さんが私のトランクを車へ積み込み、マークが座席のドアを開けた時、携帯が鳴る。
マーク「なんで父さんから…」
マークは不思議そうに電話に出た。
マーク「ハイ…父さん」
「…え?!いや、ちょっと…」
焦った様子で天を仰ぐマーク。
(どうしたのかな?)
マーク「…もう、空港へ向かおうとしてるだけど」
動揺するマークの様子に、嫌な予感が頭をもたげる。
(ひょっとして…パリ行きを反対されてるとか?)
(突破するのは、うちのパパだけじゃなかったのかも…)
するとマークは携帯を耳から離し、困ったように息を吐く。
マーク「⚪︎⚪︎…ごめん」
「…やっぱり」
マーク「JFK空港じゃなくて、小型機の飛行場へ向かってもいい?」
「え?」
マーク「⚪︎⚪︎のお父さんが心配してたって話をこないだしたからか」
「うちの父さんが自家用ジェットを出すって言って聞かないんだ」
「じ、自家用ジェット?!」
マーク「うちのジェットは空軍出身の優秀なパイロットを配してるから」
「こっちの方が安全だ、大事なお嬢さんをこの一般の旅客機なんかに乗せられないって」
「言ってるんだけど…」
「いやいや、一般の旅客機で十分だよ!ほんとに!」
マーク「…だよね」
マークは再び父親に挑む。
マーク「自家用ジェットは⚪︎⚪︎にかえって気を遣わせるから…うん、そう、一般に旅客機で…」
「え?ファーストクラスにしろって…?いや、だから父さん…」
私は隣で大きく首を横に振る。
ようやく父親の説得を終えたマークは、電話を切り大きなため息をついた。
マーク「やれやれ。うちの親の説得までいるとは想像してなかったな」
「じゃ、行こうか」
私は笑顔で頷いた。
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ハイヤーが走り出すと、マークは何か思い出したように口を開く。
マーク「あ、そういえば父さん、あのパジャマ気に入ってよく使ってるよ」
「ほんと?嬉しいな」
私はマークのお父さんの誕生日パーティーに、ささやかながらプレゼントを持参していた。
マーク「娘がいたらこういうものをくれるんだな、とか言って喜んでた」
「そっか…よかった」
2人の父親を説得し終えた私たちは、晴れて、フランス、パリへと旅立つ。
8時間のフライトを経て、パリのシャルル・ド・ゴール空港に到着。
さっそくリムジンでパリの中心へ向かう。
マーク「⚪︎⚪︎、行きたいところがあったら言っておいて?スケジュールするから」
「でも、有名どころしか知らないしなー。シャンゼリゼ通りとか」
マーク「いいんじゃない?」
「ただの通りの名前だけど」
「ほら、馬鹿にしたー!」
マーク「してないよ」
「他には?」
「やっぱり、エッフェル搭とか」
マーク「ただの電波塔だけどね」
「もう!」
マーク「うそうそ。両方とも実際行ってみるとすごくいい雰囲気だよ」
マークは笑いながら、運転手に行き先を指示した。
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リムジンからシャンゼリゼ通りに隣立つ。
すると、思い描いていた通りのお洒落な雰囲気がそこに漂っていた。
「わあー、素敵。ちょっとしたカフェも可愛いし、みんなのファッションも個性があっていいなー」
私は興奮しながらシャンゼリゼ通りを歩く。
ふと、視線を感じて隣を見上げた。
「…私、はしゃぎ過ぎ?」
マーク「ううん」
「でも…ずっと見てる」
マーク「⚪︎⚪︎が楽しそうにしてるの、見てたいから」
マークはそう言いながらも私の方ばかり見つめてくる。
「石畳につまずくよ?」
マーク「大丈夫」
そういって私の方を見ながらも、ちゃんと信号の前で足を止めた。
マーク「向こうの通りに、俺が住んでたアパルトマンがあるんだけど、見る?」
「見てみたい!」
(マークがどんな留学生活を送ってたか、興味あったんだよね)
私たちはマークが留学中に身を寄せていた家具付きアパートの前に着いた。
想像していたよりも質素な作りに驚く。
「へえ…もっと豪華なアパルトマンかと思ってた」
マーク「他の学生と同じ環境で学びたかったから、ここにした。おかげで町の人たちとも触れ合えたし…」
と、その時、
??「よお、マーク!帰ってきたのかい?」
そのフランス語に、マークの顔がパッと華やぎ、後ろを振り返る。
マーク「やあ、ロドルフ!」
マークはロドルフというそのお爺さんと懐かしそうに抱き合った。
そして私を紹介するように、こちらに手を向けていう。
マーク「ロドルフ、約束通り連れてきたよ。俺の大切な…」
ロドルフ「⚪︎⚪︎だろ?」
「え…?」
フランス語だけど、ロドルフさんが私の名を呼んだのはわかった。
(このフランスのお爺さんが、私の名前を知ってる…?)
するとロドルフは、フランス語で何か私に言って、ウインクをする。
(…なんて言ったんだろう)
「ねえ、マーク、今なんとおっしゃったの?」
マーク「え…今?そんな…たいしたことは…」
マークが頭を掻いていると、ロドルフはフランス語訛りの英語で言う。
ロドルフ「キミは幸せだね。一人の男にこれだけ愛されて」
マークは少し照れたようにロドルフを手で制する。
マーク「余計なこと言わなくていいから」
ロドルフ「だってフランスじゃ、こういう美男は浮気するもんだ」
「なのにマークときたら、日がな一日、キミのことを想いながら映画の勉強さ」
マーク「ロドルフは俺のアパルトマンの大家さん。本当に人がよくて、いろいろお世話になったんだ」
「奥さんの作るチキンポトフは最高に美味しい」
ロドルフ「俺のことも褒めておいてよ」
「ふふ…」
マーク「ロドルフには俳優の才能があって…」
「あ!」
マーク「思い出した?」
「マークのショットフィルムに出てきた…あのお花屋さん!」
ロドルフ「よく覚えていてくれたね、⚪︎⚪︎!」
ロドルフは嬉しそうに目尻を下げると、ちょっと待ってというように私に掌を向ける。
しばらくすると、可愛いガーベラの花を手に戻ってきて、私の髪にさしてくれた。
ロドルフ「うちの庭で育ててるガーベラだよ」
「現実には花を売るよりこうして可愛いお嫁さんに花をプレゼントするのが得意さ」
「ありがとうございます」
マーク「⚪︎⚪︎、よく似合ってる。可愛いよ」
ロドルフ「マーク、二枚目ぶってないでもっと褒めてやりな」
「留学中は毎日⚪︎⚪︎の話を聞かされたからな、俺の方がうまく褒められるかもな」
「ええと、なんだ、笑顔が可愛くて、優しくて…」
マーク「ロドルフ!それは言わない約束だろ!」
ロドルフはおどけたように肩をすくめる。
ロドルフ「マーク、あの花の話、覚えてるか?」
マーク「…もちろん」
「あの花って?」
マーク「ああ、えっと、ロドルフは花に詳しくて…いろいろ教えてくれたんだ」
(何の花だろう…?)
ロドルフ「じゃあな、マーク、また⚪︎⚪︎と遊びにおいで」
マーク「うん、また必ず来るよ」
私たちを見送り、ロドルフはいつまでも手を振っていた。
To Be Continued…….
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