2015年9月1日火曜日

第14話 別れの話(前編)

第14話 別れの話(前編)



このところ、学校内は休み時間もピリピリした空気が漂っている。
大学進学認定試験、通称SATが間近に迫っているのだ。
放課後、私はセリーナと、ブレアと、中庭のテーブルでSATに向けての勉強に励んでいた。

ブレア「SATの模擬テストどうだった?」

セリーナ「全然ダメ。ブレアは?」

ブレア「2200点。まあまあかな」

セリーナ「それトップクラスじゃない」

ブレア「ネリー・ユキなら2300点はいってるはず。彼女もイェール大志望よ」
   「コンスタンスから2人も行けると思う?」
   「彼女は課外活動もハンパじゃないし、今のうちにつぶしとかなきゃ」

「つ、つぶすって…」

セリーナ「⚪︎⚪︎はどうだった?」

「一応、目標の2000点はいったけど」

セリーナ「さすが大学教授の娘だね」
    「私は2000点突破が目標」
    「はぁ…家でもなんだか落ち着かないし勉強どころじゃないんだよね」

「引っ越しは終わったんじゃ?」

セリーナ「終わったから大変になったの」

セリーナのママとチャックのパパが近々結婚するのに先駆け、
この春休み、ヴァンダーウッドセン家はバス家にお引っ越しをした。
つまり、セリーナはチャックと家族として同居を始めたというわけだ。

セリーナ「バスルームもチャックと共有だよ?考えられる?」

ブレア「最悪!」

ブレアはSATの参考書にラインを弾きながら、吐き捨てるようにそう言った。

(ブレア…ほんとにチャックのことキライなのかな)

チャックと寝たことがあるのは事実のようだけど、
ブレアとチャックは一度だって仲の良い様子を見せたことはない。

(…ブレアはネイトのことが忘れられないのかも)

ブレア「なによ、さっきから私の顔をじっと見て」

「あ…いや、ごめん」

ブレア「なんだか今日、ずっとぼんやりしてない?」

「うん…」

実は、最近ずっと頭を悩ませていることがある。
ブレア復活パーティー以降、マークが私に気を遣いすぎている気がしてならないのだ。
先日も、こんなことがあった…





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マーク「ちょっと映画の雑誌買っていい?」

「いいよ」

街を歩いていた私たちはブックショップへ立ち寄った。
ところが、雑誌コーナーに辿り着くなりマークは急に踵を返す。

マーク「やっぱり今度にする」

「え?あそこにあるやつでしょ?マークがいつも読んでる月刊誌…」

指をさそうとした私の手をサッと握り、マークはにっこり微笑む。

マーク「今日はいいや、荷物になるし」

私はマークの体の向こうをそっと覗きこんでみる。
すると、映画雑誌の手前のラックに並ぶゴシップ誌の表紙に、私の名前を見つけた。

「私に見せたくなかったのって、あれ?ええと…『マークの新恋人の素性に迫る』

マーク「はい、もう行くよ?」

マークは私の体の向きを変え、肩を抱いて店を出て行く。

「もう平気なのに。どうせ嘘しか書いてないんだし」

マーク「嘘なら知る必要もないでしょ」

「別に読もうとも思わないけど…マークが映画雑誌買うのをやめたりするから」

マーク「いーの俺は」
   「あ、そうだ!」
   「先週オープンしたドーナッツ屋さんに行ってみない?」

(私のことなんか気にしなくていいのに…)




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(どうすればマークに気を使われずにすむのかな?)

私はセリーナとブレアに相談してみようと思いつく。
SATの問題集を開いたままの私は、同じテーブルで必死に問題を解いている二人に話しかけようとした。

「あの…さ」

ブレア「一万ドル借りて毎月18ドルずつ返済って、どう思う?」

「え?」

ブレア「しかも年利13%でいつ完済できるかだって」
   「貧乏くさくてイヤになっちゃう」

「数学の問題か…」

セリーナ「しかもこれ複利だって」
    「最初からママにお金だしてもらえば利息なんてつかないのに、理解できないよね」

「…」

2人は文句を言いながらも、懸命に問題を解き続けている。

(こんな時に3ドルの週刊誌の話を持ち出すのもな…)

私は相談するのを諦め、先に家に帰ることにした。



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校門を出たところで、後ろから声をかけられる。

??「⚪︎⚪︎」

「ハイ、レオン…」

振り返った私は、レオンが手にしているモノを見て思わず吹き出してしまう。

「どうしたの?それ」

レオンは『ギターヒーロー』というゲームのギター型コントローラーを恥ずかしそうに手にしていた。

レオン「エリックに貸してたのが今日返ってきて…」
   「俺が持ってると、そんなに変?」

「うん、なんだか似合わなくて」

レオン「…けっこう、ギターヒーローは得意なんだけど」

レオンはボソッとそう言うと、照れたように笑う。

レオン「あれ?今日はこっち?」

私はいつもとは逆の方向へ向かって歩いていた。

「うん、ハーベストのプリン買って帰ろうかと思って」
「こないだマークの家で食べたら美味しかったから、パパにお土産に」
「あー、家帰ったらSATの勉強しなきゃ」

レオン「SATのことで…気をもんでたの?」

「え?」

レオン「さっき、⚪︎⚪︎の足取りが元気なさそうに見えたから」

「…まあ、SATのこととか…いろいろね」

レオン「ふーん…」

レオンはどこか見透かすようにわたしを見るも、それ以上追求してくることはなかった。

「あ、ねえ、それちょっと貸して?私ギターヒーローってやったことないの」

レオン「いいけど、コントローラーだけじゃ遊べないよ?」

「うん、触るだけ」

そういってレオンからギター型コントローラーを受け取ると、私は弾くフリをしてみせる。
途端、レオンはフッと笑いを漏らす。

レオン「⚪︎⚪︎…その弾き方は、三味線だよ」

「ほんと?ジミヘンっぽく弾いたつもりなんだけど」

私はさらに派手にギターをかき鳴らした。

レオン「お願い…これ以上、笑わせないで…」

レオンは片手で顔を覆うようにして笑う。



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ギターの音色はもちろん聞こえなかったが、2人が笑う声はマークの胸に届いていた。
部屋の窓からなんとなく外を見やったマークは、そのまま窓際で立ち尽くす。

マーク「⚪︎⚪︎のあんな顔…久しぶりに見たな」

出会った頃の⚪︎⚪︎のまぶしいほどの笑顔は、ゴシップされて以降、なかなか見ることができずにいる。

マーク「⚪︎⚪︎ために俺ができることって…」

マークは自分の中で生まれつつある決断を、固め始めていた。



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良く晴れた休日の午後。

(こんないい天気なのに、勉強かあ…)

差し迫ったSAT本番に向け、私は部屋にこもって勉強三昧。
すると、マークから電話がかかってくる。

マーク「⚪︎⚪︎…ちょっと、セントラルパークに出てこない?あ、SATの勉強中だった?」

「窓の外のお天気があまりにいいものだから、ちょうど集中力が切れてたとこ」
「救い出してくれて感謝って感じ」

マーク「…そっか…じゃあ、待ってるね」

マークがなぜか少し口ごもったことを不思議に思いながらも、私はセントラルパークへ出かけて行った。




(電話の様子が少しいつもと違う気がしたけど…気のせいだよね?)

そんなことを思いながら待ち合わせの場所へ向かうと、マークは優しい笑顔で手を挙げ迎えてくれる。

(やっぱり気のせいだったみたい)

いつものマークの笑顔に私はホッとする。




2人、少し歩いてから、湖のほとりに腰を下ろした。

「春はいいね…こういうとこに来ると癒されるな」

マーク「SATの勉強、頑張りすぎなんじゃない?」

「日本とは教科書の内容も違うしね。人より頑張らないと」

マーク「そっか…」

「マークは?勉強順調?」

マーク「臨時できてくれる家庭教師が優秀だから、なんとかなりそう」

「みんなやっぱり家庭教師にきてもらうんだねー」
「ブレアは家庭教師の他にエステティシャンも来てもらってるんだって!」

マーク「え?なんでまた」

「毛穴が詰まったまま試験で汗かけないって」

マーク「ブレアらしいな」

「でしょ?頭脳開発専門の鍼治療の先生も来てくれるらしいよ」

マーク「へえー」

「今度、ブレアの家でやるスパ付SAT勉強会に誘われたから、行ってみようかなー」

マーク「リフレッシュできそうだね」

「セリーナも、チャックと同居を始めてから毎日いがみあってるから」
「ブレアの家でゆっくりスパを味わうのもいいかもって言ってた」

マーク「そっか…」

(…あれ?私、さっきから一人で喋ってるような?)

マークは柔らかく微笑んでうなずきながら、私の話をただ聞いていた。

「ごめん…マーク。さっきから私ばっかり喋ってるよね」

マーク「楽しいよ。⚪︎⚪︎がにこにこしてる顔、見てるだけで…」

(そういいながら、あまり表情が浮かない感じ…)

「あ…ひょっとして、何か私に話があったとか?」

マークは少し俯いて、小さく息をつく。
そして何か追い詰めたようにこっちを見ると、長い腕で私の背中を抱き寄せた。

マーク「自分の夢に気づかせてくれて、応援してくれた⚪︎⚪︎に…すごく感謝してるよ」

「…うん」

(突然、どうしたんだろ…)

私はマークの胸にうずまりながら、そっと顔を見上げた。

「…なにかあったの?」

マークは意を決したように口を開く。

マーク「俺、応援してくれる⚪︎⚪︎のためにも、自分のためにも…SATが終わったら留学しようと思う」

「え?留学って…」

マーク「パリに、歴史のあるフィルム・アカデミーがあるんだ。ここじゃ学べないような独特の技法が学べる」

「…どれくらい?」

マーク「夏休みが終わるまでかな」

(そんなに…会えないんだ)

私はため息とともに自然と言葉が口をついて出た。

「寂しいな…」

マークが戸惑うような表情を見せる。

(ダメだ、私…)
(マークの夢のためなんだから、私は弱音を吐いてる場合じゃないよ)

「でも、応援する。頑張ってきて!」

そういって笑顔を見せると、マークは抱きしめる腕をゆっくりとほどき、うなだれる。

「…マーク?」

マーク「俺たち…別れよう」

(え…)

思いもよらないその言葉に、私は愕然とマークを見つめ返す。

マーク「遠距離になるから…別れて友達に戻りたい」

マークは絞り出すようにそう言った。

「遠距離がイヤなら、私、時々会いに行くよ」
「SAT終わったら時間もあるし、パリにも行ってみたかったし」

マーク「…」

「そっか…留学中に邪魔するのはよくないよね」
「じゃあ、私、ここで待ってるよ。遠距離なんて何にも問題じゃないよ」
「電話やメールだってあるし、ほら、ニューヨークとパリじゃ、時差も6時間くらいだし…」

マーク「俺が…無理なの」

「え…」

マーク「やらないといけないことがあるから。だから…ごめん」

マークは一度も私の目を見ることなく、そう言った。

(どういうこと?全然わからないよ…)

突然のことに、私は現実を受け入れることができずにいた。
虚しい沈黙が続き、やがて私は腰をあげる。

「留学…頑張ってきてね」

途端、溢れ出した涙をマークに見られないように、私はすぐさまその場を後にした。



To Be Continued…….


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