第3話 セレブの招待状
昨夜はパパも一緒にホテルに泊まり、チェックアウトする前にパパと朝食を食べに行くことにした。
「近くに美味しいパンケーキ屋さんがあるみたい」
私はガイドブックを広げてパパに見せる。
パパ「パンケーキか、いいね。散歩がてら行こうか」
玄関に向かおうとすると、パパの携帯電話が鳴る。
パパは電話に出て話し始める。
漏れ聞こえてくる話によると、どうやらパパは学会での発表を他の教授に押し付けて戻ってきたらしい。
(パパってば…)
パパ「OK。じゃあ、メールで資料を送ってくれ。続きはそれを見てからだ」
パパは電話を切ると、しょんぼりした顔で私を見る。
パパ「すまない、⚪︎⚪︎。部屋に戻って、仕事をしなきゃいけないんだ」
「朝ごはんはどうするの?」
パパ「ルームサービスでも頼むかな」
「ルームサービスか…」
パパ「⚪︎⚪︎ひとりでも平気だったら、パンケーキ食べに行ってきてくれてもいいし」
「このホテルのレストランの朝食も悪くないらしいよ」
「じゃあ、パンケーキを食べに行ってくる」
パパ「ひとりで平気か?」
パパが心配そうに私の顔を覗き込む。
「平気だよ。もう、子供じゃないんだから。それにすぐ近くだし」
パパ「そうか」
「行ってくるね」
私はパパと別れて、玄関へと向かう。
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(えっと、パンケーキのお店はどこにあるんだっけ?)
ガイドブックをちらちら見ながら、玄関を出ると、セリーナが門をくぐってきた。
昨日と同じ服装だ。
(もしかして、朝帰り?)
セリーナ「ネイト?」
セリーナが入り口近くに立っていた男の人に声をかける。
それはブレアの彼、ネイトだった。
挨拶を交わす2人の間にぎこちない雰囲気が漂う。
私は思わず、玄関の脇に身を隠す。
(別に隠れる必要はないんだけど、なんだか見たらいけないような…)
ネイト「戻ったんだろう?」
セリーナ「あなたのためにじゃない」
2人の会話が漏れ聞こえてくる。
セリーナ「ブレアは親友なの。あなたはその彼氏で、愛されてる。それで丸く収まるの」
セリーナはネイトに背を向け、玄関へと向かってくる。
(まずい…)
私は慌てて、顔を隠すように後ろを向いて歩く。
??「立ち聞きとは悪趣味だな」
「え?」
驚いて見上げると、そこにはアイザックが立っていた。
「私、そんなつもりじゃ!」
横を通り過ぎようとしたセリーナが私に気づいて、立ち止まる。
セリーナ「⚪︎⚪︎…」
私ははっとして彼女の方を振り向く。
「セリーナ…」
セリーナはちらっと私とアイザックを見る。
「あ、あの、私…」
セリーナ「ごめん、急いでるから」
セリーナは私から目をそらし、そのままホテルの中に入っていく。
「待って!」
追いかけようとして、中から出てきたビジネスマン風の男の人にぶつかりそうになり、
手に持っていたガイドブックが床に落ちる。
そしてその上に、男の人が持っていた紙コップのコーヒーが盛大にこぼれた。
「あっ!」
男の人「すみません」
「あ、いえ…」
セリーナのことが気になって、私はあたふたと返事をする。
彼女はそのまま、ホテルの奥へと消えていった。
男の人「本当にすみません」
男の人がガイドブックを拾って、私に差し出してくる。
表紙はコーヒーでベタベタになっている。
(あーあ…)
男の人は弁償すると申し出てくれたけれど、ぶつかったのはこちらの不注意だからと断った。
表紙はひどい状態だけど、開いてみると中身はなんとか無事のようだ。
アイザック「貸してみろ」
アイザックが私の手からガイドブックを取り上げる。
アイザック「ふーん…」
バラバラっと中身を見て、彼はいきなり、ガイドブックをそばにあったゴミ箱に捨ててしまう。
「ちょっと、何を…」
アイザック「必要ないだろう、こんな物」
「そんな…」
アイザック「ガイドブックに書いてあることを確かめて歩いて、何が楽しいんだ?」
「え?」
アイザック「人の意見なんて信用するな。自分が見たこと、感じたことがすべて」
「ニューヨークはそうやって楽しむ街だ」
吐き捨てるようにそう言って、彼は去っていった。
(自分が見たこと、感じたことがすべて…か)
セリーナのこともそうかもしれない。
彼女は、私とかけ離れた華やかな世界に住んでていて、バッドガールだって噂もある。
だけど、初めて会った時、私は彼女を素直で優しい人だと思った。
(自分の直感を信じよう…)
しばらく待ってみたけれど、彼女は部屋から出てきそうもない。
私はセリーナにメールを送った。
『今日、ホテルをチェックアウトして、パパのアパートメントに移ることになったの』
『また学校で会おうね。』
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パパのアパートメントはアッパーイーストの静かな住宅街にある。
パパのアパートメントはアッパーイーストの静かな住宅街にある。
パパ「ここが今日から⚪︎⚪︎の家だ」
「疲れているだろうけど、すぐ学校も始まる」
「夕食まで時間あるから、それまで部屋の片付けでもしてたらいいんじゃないか?」
「夕食まで時間あるから、それまで部屋の片付けでもしてたらいいんじゃないか?」
パパに言われて、私は部屋へと向かった。
(登校日までまだまだだと思っていたけど…)
今日はとうとう学校初日。
私は自分の部屋と、真新しい制服を見て、がんばらなきゃ、という気持ちになる。
(家具はまだ少ないけど、これから揃えていけばいいよね?)
私はパパの待つリビングへ向かった。
パパ「⚪︎⚪︎、学校まで送っていこうか?」
私が編入するコンスタンス・ビラード学園までは歩いて10分ぐらい。
「ひとりで行けるよ」
パパ「いや、心配だから送っていく」
どうしてもと譲らないパパに根負けして、仕方なく初登校はパパに送ってもらうことにした。
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5分足らずで学校に着き、パパは校門の前で車を停める。
「じゃあ、行ってくるね」
パパ「ああ、しっかりな」
パパは私の顔を見て、真面目な顔になっていう。
パパ「勉強ももちろんだけど、学校でいい友達を作りなさい。学生時代の友達は何よりの財産だから」
「うん。わかった」
私が降りると、パパは軽くこっちに手を振ってから車を発進させた。
(友達か…。学校でセリーナに会えるといいな)
私はカバンを抱え直して、校門へと入っていった。
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午前中のクラスを終えて、私はかなりぐったりしながら校舎を出る。
覚悟はしていたけれど、英語での授業について行くのはかなりハードだ。
??「⚪︎⚪︎!」
名前を呼ばれて振り向くと、ジェニーが駆け寄ってくる。
ジェニー「制服、似合うじゃん」
「ありがとう」
ジェニー「どう、クラスは?やっていけそう?」
「うーん。なかなか厳しい…」
ジェニー「まあ、すぐ慣れるって」
私はジェニーが持っている赤い封筒の束を見て聞く。
「何、それ?」
ジェニー「これ?」
封筒の表には綺麗なカリグラフィーで宛名が書かれている。
ジェニー「キス・オン・ザ・リップスっていうパーティーの招待状」
「宛名書き全部やったら、私も行っていいって言われて…」
「え?これ、全部ジェニーが書いたの?」
封筒は100通以上ある。
全部の宛名書きをするのは、かなりの重労働なはず。
ジェニー「私みたいな庶民派の新入生がイケてるパーティーに潜り込むには、これぐらいするしかないの」
「そうなんだ…」
ジェニー「あ!」
誰かを見つけたジェニーが階段を上っていく。
ジェニー「ブレア!」
(え?)
階段にはブレアが他の友達と一緒に座っていた。
ブレアが私に気づいて言う。
ブレア「あなた、うちの学校に入ったんだ?」
「ええ、よろしく」
ブレア「ふーん」
ブレアはくるりとジェニーの方に向き直って聞く。
ブレア「できたの?」
ジェニー「ええ」
ジェニーが封筒の束をブレアに渡す。
宛名書きはブレアに頼まれたものらしい。
ブレア「悪くないじゃん。じゃ、一枚あげる。約束通り」
ジェニー「ありがとう」
ジェニーはブレアが差し出した招待状をうれしそうに受け取る。
(パーティーって、そんなにみんな、行きたいものなんだ…)
ブレア「まさか、あなたもパーティーに来たいとか?」
「え?私は別に…」
ブレア「そうよね。あなた、パーティーには向いてなさそう」
「場違いな人に来られると、パーティーの雰囲気、壊れるのよね」
「…」
返す言葉もなく、私はブレアを見る。
(私、彼女にかなり嫌われてるみたい…)
??「あれ?⚪︎⚪︎ちゃん」