SS① 二人で見上げる空
パパ「金曜日の親睦会は出席するのか?」
朝食を食べていると、パパがそう切り出した。
「アイビー・ウィーク親睦会のこと?」
パパ「他に何がある?大事な日だと思うけど」
各大学の代表者が高校を訪問するアイビー・ウィーク。
その催しの一環として、今週の金曜日に親睦会がある。
「みんな、代表者の案内係になろうと必死みたい」
パパ「他人事みたいな言い方だな」
「だって、アイビー・ウィークに進学しようと思ってないし」
パパ「今の段階で可能性を狭める必要はないと思うけどね」
「私、将来、ファッション誌の仕事がしたいの。エミリーみたいに」
パパ「恵美子がいるような世界に進みたいとしても」
「名門といわれる大学で学んだことは決して無駄にはならないよ」
「パパはまあ、その名門大学の教授だからね」
パパ「おまけに親睦会にも参加する」
私のフォークからフレンチトーストが落ちた。
「…え?!パパ、今なんて言った?」
パパ「コロンビア大の関係者として親睦会に招かれたんだ」
「パパも突然のことで少し戸惑っているところだ」
「そうだったんだ…」
パパ「アイビー・ウィークに興味がないとしても、大学へは進学するつもりだろう?」
「各大学の代表者と直接話せるいい機会だから、親睦会には出席したほうがいい」
私はパパの勧めに従い、アイビー・ウィーク親睦会に出席することになった。
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親睦会当日。
会場に着くと、生徒たちはみな志望校への切符を手に入れようと、
大学関係者へのアピールに余念がない。
コロンビア大学のバッジをつけたパパも、集まってくる学生に圧倒されている様子。
「はぁ…」
気後れした私は、ドリンクコーナーへと向かった。
「あれ、ダン?」
ドリンクコーナーでせっせとグラスへ飲み物を注いでいたのは、ダン。
ダン「やあ、⚪︎⚪︎。どれにする?おすすめはフルーツポンチ」
「…じゃあ、それで」
驚いている私を見て、ダンはニコッと笑いながらドリンクを注ぐ。
ダン「案内係の選考に落ちて、苦肉の策でつくったのがこのドリンク係」
「それでなんとか親睦会に潜り込めたってわけ」
「そうなんだ」
ダン「アイビー・リーグへ進学した生徒にとっては、この親睦会が人生を左右すると言っていいから」
「ましてや親が大学のOBでもなく建物の寄付もしていない人間にとってはね」
ダンが残念そうに見たその先には、ダートマス大の案内係をするネイトの姿。
ダートマスの代表者、ジェド・ホールは、ダンの愛読書の著者なのだそう。
「ダン、ドリンク係変わるよ。ジェド・ホールと話してきたら?」
ダン「「ありがと。でも大丈夫。隙を狙っていくから」
「それより…マークと君のお父さんって、本当に仲良しなんだね」
「え?」
ダンの視線の先に目をやると、マークとパパが楽しげに話している。
「…本当に、って?」
ダン「おっとゴメン。例のサイトで、見た」
「ダンまで…『ゴシップ・ガール』って、マンハッタンの学生の必須科目なの?」
ダン「おそらくね」
苦笑いを浮かべるダンからフルーツポンチを受けると、私はパパとマークの元へ向かった。
パパ「⚪︎⚪︎、どこへ行ってたんだ?」
「それよりマーク、さっきからパパとばかり話してるけど、いいの?せっかくの親睦会なのに」
マーク「楽しいよ」
「そうかもしれないけど、他の大学の教授とも話したほうがいいんじゃ」
パパ「マーク、また娘のいないところでね」
そう言ってその場を離れると、すぐにパパは生徒たちに取り囲まれた。
マーク「他の大学の教授か…」
「さっきダンが、この親睦会が人生を左右するって言ってたよ」
マーク「だよね」
言いながらも、私が持っているフルーツポンチに視線を落とす。
マーク「俺も飲もうかな」
「ああ、あそこでダンが…」
と、ドリンクコーナーを見ると、ネイトがダンに代わってドリンクコーナーに立っている。
マーク「ダンは…ああ、念願のダートマス大の代表者と話してるね」
会場で、嬉しそうにジェド・ホールと話すダンの姿を見つけた。
「ほんとだ…って、マーク、のんびりしちゃって、大丈夫?」
マーク「んー、なんだかちょっと、疲れたな」
「マーク…」
マーク「フルーツポンチだけ飲んだら、俺、帰るわ」
「え?」
にっこり笑って手を振るマークと入れ違うように、セリーナがやってくる。
セリーナ「マーク帰っちゃうんだ」
「アイビー・リーグには興味ないみたい」
セリーナ「そんなはずないよ。未来のジョーンズ・ピクチャーズ経営者だもん」
「アイビー・リーグに進んでMBA取得がマストじゃない?」
「だよね…」
セリーナ「マークのパパはアイビー・リーグにも十分な寄付をしてる実力者だから」
「売り込みをする必要がないのかな」
セリーナと話していると、パパが近づいてきた。
パパ「⚪︎⚪︎、私の役目は終わったみたいだから、早めに切り上げるよ」
「まだ福祉活動委員会の発表が残ってるのに?」
パパ「慣れないことをして疲れてしまってね。自分への福祉を優先する」
パパは軽く手を挙げて去っていく。
しばらくして、ブレアがステージ上に上がった。
ブレア「アイビー・ウィーク親睦会へようこそ」
「私はブレア・ウォルドーフ、福祉活動委員会の議長です」
「私たちの学校では毎年、地域に有益な機関を一つ選んで支援しています」
「そして今年、支援対象に選んだのは、オストロフ・センターです」
途端、会場内の生徒や大学の代表たちから驚きの声があがる。
(オストロフ・センターって、薬物中毒の治療をするところだよね…)
ブレア「驚きの方も多いかと思いますが、高校生だからといって、薬物中毒にならないとは限りません」
「事実、センターの素晴らしいプログラムのおかげで」
「私たちの仲間の一人がどうにか立ち直ることができました」
「セリーナ・ヴァンダーウッドセンさん、どうぞステージへ」
(え…?)
セリーナは困惑した表情を浮かべながらも、潔くステージへ向かう。
セリーナ「こんにちは、セリーナ・ヴァンダーウッドセンです」
「オストロフ・センターがいかに優れた施設であるかを伝えてくれた」
「ここにいる友人、ブレアに感謝したいと思います」
それだけ述べると、セリーナは足早にステージから去っていく。
「…セリーナ!」
私は後を追いかけた。
けれど、先に追いついたダンがセリーナを捕まえ、話し込むのが目に入り、足を止める。
(ダンに任せた方がよさそうだな…)
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重たい足を引きずるようにして、私は帰宅した。
マーク「⚪︎⚪︎、おかえり」
(…え?)
リビングでパパとコーヒーを飲むマークの姿に、私は目をぱちくりさせる。
パパ「帰る途中で会ったんだ」
「…そっか」
セリーナのことで頭がいっぱいの私は、それだけ言って自分の部屋へ向かう。
マーク「⚪︎⚪︎…」
マークが心配そうに椅子から立ち上がった。
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セントラルパークを、マークと2人、歩く。
私の様子がおかしいと思ったマークが、家から連れ出してくれたのだ。
マーク「そこに座らない?」
「うん…」
マークは足を止めると、芝生の上にさりげなくハンカチを敷き、その隣に座る。
マーク「どーぞ」
「ありがとう」
敷いてくれたハンカチに私が腰を下ろすと、
マークは優しい笑みを浮かべ、私の顔を覗き込む。
マーク「…で、どうしたの?」
私は、親睦会でのブレアの発言を伝えた。
すると、マークは驚いた様子も見せず小さく頷くと、私の目をじっと見る。
マーク「それで、⚪︎⚪︎はどう思った?」
「事実だとしても、嘘だとしても…セリーナを支えたいし、頼って欲しい」
マーク「いいんじゃない?⚪︎⚪︎のその気持ち、そのままセリーナに伝えてあげたら」
「そのまま…?」
マーク「うん。何も変わらなくても、気持ちは伝わるから。それだけで十分、セリーナの助けになると思うよ」
「…そうだね」
マークに話を聞いてもらっただけで、さっきまで混乱していた胸の内が、波が引くように落ち着いた。
マーク「いいな、セリーナは。こんなに頼もしい味方がいて」
「マークにだって、味方するよ?」
マーク「ホントに?嬉しい」
「…なんだか、マークには元気をもらってばかりだな」
マーク「そう?」
「ここでの生活も、マークのおかげで、少し慣れてきたし。不安なこととか、受け止めたくれるし」
マーク「俺のこと、サンドバッグって呼んでもいいよ」
そう言うと、マークは私の腕を引き、そのまま芝生に仰向けに横になった。
(え…?)
私はマークに腕枕された状態で、ぬけるような青空を見上げる。
マーク「ここから見る空って広くて青くて…抱える悩みも不安も吹っ飛ぶんだ」
「だから、また何かに悩んだりしたら、ここに来よ」
「うん…」
腕枕に少しだけ胸がドキドキしたけれど、
マークと2人で空を見上げていると、心から癒される気がした。
日が傾いてきて、マークがこっちを見る。
マーク「⚪︎⚪︎のパパが心配するといけないから、帰ろうか」
「そうだね」
2人、立ち上がり、歩き出してすぐ、
マークの髪や背中にびっしりと芝生の草がくっついているのが目に入った。
「アハハ…すごいよ、これ」
言いながらくっついた草を手で払っていると、マークもちらっと私の背中に目をやる。
マーク「⚪︎⚪︎も芝生つけて歩いてる」
笑い合いながらお互いの背中を払って、ふと、私は自分の髪に草が付いてないことに気づく。
(あ…腕枕でかばってくれてたんだ)
マーク「ちょっと、動かないで、まだ背中がパーク状態だから」
「まだついてる?」
マーク「ついてる。このままだとパークのリスが住みついちゃうよ」
そう言って、マークは優しく背中の草を取ってくれた。
To Be Continued…..
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