「でも…ブレアも色々大変だったんだね」
マーク「アッパー・イースト・サイドの人間は恵まれてそうで、みんな何か悩みを抱えているのかも」
そういったマークの横顔がどこか寂しげに目に映る。
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いろんな話をして歩いていると、いつしか私の家の前に到着。
マーク「歩かせてごめんね」
「ううん」
マーク「⚪︎⚪︎と一緒だと時間が経つのが早いんだよ…」
「なんでかな」
私の顔を覗き込むようにして、そっと手をつなぐ。
(え…?)
思わず赤面する私を見て、マークは手を離した。
マーク「やば…今、めちゃくちゃ可愛かった」
仕掛けた方のマークまで顔を赤くしている。
「そういう遊び禁止」
マーク「ごめんごめん」
すると、マークは何か言いたげに目を泳がせ、口を開く。
マーク「そういえば、レオンと…」
「…?」
マーク「あ、いや、なんでもない」
「え?」
マーク「…じゃーねー」
マークは背中を向けたままバイバイをして行ってしまった。
(なんだったの…今のは)
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今日は家族と大地の恵みに感謝する日、サンクスギビング。
77丁目セントラルパークウエストからパレードが始まる朝9時、私の携帯が鳴った。
セリーナ「感謝祭おめでとう。今からちょっと、ブレアの家に遊びに行かない?」
セリーナとブレアは、家族と感謝祭ディナーを迎えるまでの時間、
共に過ごすのが恒例になってるらしい。
今年はそれに、私も誘われたというわけだ。
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誕生日会以来ブレアとは会っていなかったため、ちゃんと立ち直れているか心配しながら家へ向かう。
ブレア「ハイ、セリーナ、⚪︎⚪︎、感謝祭おめでとう!」
そういったブレアの表情がすっきりと晴れていたことで、ひとまずホッとする。
(ネイトのことは、吹っ切れたのかな)
「ブレア、元気そうで…」
言いかけた私を、ブレは手で制する。
ブレア「あの日のことはもう忘れたの、わかった?」
「うん」
(じゃあ、チャックのことは…?)
二人のキスを目撃したことで、私は色々と気になっていたけど、ブレアはいたってご機嫌な様子。
ブレア「聞いて?今日ね、パパが久しぶりに家に戻るの!」
「戻るって、出張に行ってたとか?」
ブレア「男の恋人とね」
「え?!」
ブレア「パパは1年前に家を出てその彼とフランスで暮らしてる」
「でもね、今日は感謝祭だから帰ってくるのよ」
「よかったね!」
セリーナ「感謝祭は家族で過ごす日だからね」
「今日はダンとは会わないんだ?」
セリーナ「ダンの家族はみんなで感謝祭ディナーを作るのが恒例なんだって」
「と言ってもダンは、クランベリーの缶を空ける役目らしいけど」
「ふふ…そっか」
セリーナ「そういう⚪︎⚪︎はどうなの?」
「どうって?」
セリーナ「マークだよ」
「あ、ああ…家族と過ごすんじゃないかな、感謝祭だし」
セリーナ「そうじゃなくて。彼とゴシップされてから、その後進展は?」
「…え?」
ブレア「わかりやすいわね。⚪︎⚪︎って動揺すると瞬きばかりする」
ブレアとセリーナにじーっと見つめられていると、私の携帯が鳴り救われた気分。
「もしもし、あ、パパ?」
救ってくれたのはパパ。
そろそろ感謝祭ディナーの買い出しに行くからと言われ、街で待ち合わせることになった。
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街を歩きながら、パパは頰をほころばせる。
パパ「今年は嬉しいな。感謝祭を家族と過ごせる」
離婚とほぼ同時期にニューヨークへ渡ることになったパパは、
これまであまり感謝祭にいい思い出はないらしい。
スーパーへ向かい歩いていると、ふと足が止まる。
「マーク…!」
家族連れでにぎわう通りに、マークが一人で歩いていた。
マーク「ハイ、⚪︎⚪︎。お父さん、こんにちは」
パパ「やあ、マーク。感謝祭の買い出しかい?」
マーク「まあ…そんなところです」
そういってマークは手にした紙袋を少し持ち上げる。
それは、食材のお店ではなくDVDショップのもの。
マーク「父さんは今日も仕事だから、俺は家で映画でも見ようかと思って」
「一人で?」
マーク「うん」
パパ「マーク、よかったらうちで一緒に感謝祭を過ごさないか?」
マーク「でも、せっかくご家族で…」
パパ「ちょうど映画を観たい気分だったんだ」
マークは嬉しそうに笑う。
マーク「じゃあ、お言葉に甘えて」
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3人で食材の買い出しを終え、早速お料理を開始。
ターキーの味付けは済んだからあとは焼くだけ。
残るはパンプキンパイとマッシュポテト。
マーク「⚪︎⚪︎、絶対いいお嫁さんになるね」
マークは対面キッチンの向こう側で、両肘をついてこちらを見ている。
恥ずかしくなった私は、傍にあったエプロンをマークに突き出す。
「観てないで手伝う!」
マーク「はーい」
ターキー担当のパパはオーブンの見張り番をしながらポテトをマッシュ中。
マークには、パンプキンパイの生クリームを泡立ててもらうことにした。
「ボウルを傾けて」
マーク「こんな感じかな」
マークは慣れない手つきながら必死に泡立てる。
よく見ると、その頬っぺたに生クリームをつけていた。
(なんだか可愛い)
料理が整い始めたところで、叔母さんが登場。
エミリー「ハイ、みんな!」
「エミリー、遅いよ」
エミリー「パイの焼ける匂いがしてきたから、そろそろかと思ってね」
パパ「サラダを手伝うと言ってたのはどこのどいつだ?」
エミリー「兄貴、代わりにいいワインを仕入れてきたから」
パパ「どうせお前一人で飲むんだろう?」
エミリーは手にしていたワインをテーブルに置くと、私とマークをじっと見据える。
エミリー「…ずいぶんいい感じじゃなーい!」
「な、なにが!」
エミリー「キミ、⚪︎⚪︎の彼?」
マーク「もくろんではいますけど、まだ」
エミリー「あははは!面白い子ね」
「マークも変なこと言わないの!」
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マークを相手に散々食べて飲んで喋り捲ったエミリーは、
からのワインボトルを前にソファで酔いつぶれている。
「静かになったと思ったら寝ちゃったみたい」
父「まあ、いつものことだ」
マーク「ほんと楽しい人だなあ」
感謝祭ディナーでお腹も満たされた頃、パパの携帯が鳴る。
父「ああ、わかった。すぐに行く」
仕事で大学に行かないといけなくなったらしい。
「パパ、残ったターキーでお夜食にサンドイッチ作ろうか?」
父「大丈夫。ありがとう。2人でゆっくり楽しんで」
そういってパパは出かけて行った。
マーク「じゃあ、映画でも観る?」
「そうだね」
マークは紙袋から、今日買ったDVDを取り出した。
マーク「あ、でも…起きちゃうといけないか」
そういって、エミリーを心配そうに見る。
ソファで眠るエミリーに毛布をかけて、2人、私の部屋に移動することにした。
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マークの買ったDVDはスパイアクションもの。
またも2人して、両手に拳を作って鑑賞する。
マーク「よし、行けー!」
「あはは、最高!」
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映画の興奮冷め遺らぬまま、私たちは風に当たろうとベランダへ出た。
「面白かったー!あっという間に終わっちゃってた」
マーク「テンポよかったよね。無駄なカットが一切なかった。場面展開にキレがあって」
「あの最後の見せ場のカメラワークもさ…」
「って、また、マニアックな話になりそう」
「マークが映画のこと話してる時、いい顔してるね」
マーク「そう?」
「生き生きしてて。こっちまで楽しくなるよ」
マークはベランダの手すりに両肘をかけ外を眺める。
マーク「…映画、作りたいな」
「作れるんじゃない?マークにはその環境も整ってるし」
すると、マークは自嘲気味に笑う。
マーク「俺の将来は、映画会社の社長、だよ。作るんじゃなくて、ビジネスだけの」
その切なげな横顔に、マークが心の奥にしまっていた葛藤を知った。
「私は…応援するよ。マークの夢」
マーク「ありがとう。一番応援して欲しい人にそう言ってもらえて、嬉しい」
「またそういう冗談言う…」
マーク「何でも冗談に受け取らないで?」
真顔でそう言われ、思わずドキッとした。
いつしか舞い降りてきた雪を見上げ、2人、お互いの夢の話になる。
マーク「⚪︎⚪︎も、ファッションの道へ進めるといいね」
「マークも、映画を作る人になれるといいな」
マークはしばらく、無言のまま雪を眺める。
そして、困ったように小さく笑った。
マーク「父さんは、俺が後を継ぐと信じてる」
「映画を『つくる』人間じゃなくて、『売る』人間になることを望んでるんだよね」
「そうなんだ…」
マーク「俺はベンに次の社長になってもらえたら、って思ってるんだけど」
「ベンって…前にクラブで会った?」
マーク「そう…父さんの右腕としてずっと会社を支えてきた人だから」
「彼こそ後継者に相応しいと俺は思ってるんだ」
「今すぐにはわかってもらえなくても」
「お父さんにじっくり気持ちを伝えたら、いつかわかってくれるよ」
マーク「…そうだね。頑張ってみようかな」
マークはニコッと微笑んだ。
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翌朝、リビングで泊まったマークを起こそうとやってくると、
マークはソファの上で気持ちよさそうに布団にくるまり丸くなっている。
(よく眠ってる…もうちょっと寝かせてあげようかな)
そう思い部屋へも戻ろうとしたその時、眠っていたはずのマークに急に手を引っ張られた。
(えっ!)
そのまま私を抱き寄せるマーク。
マーク「寒っ…」
そういって、⚪︎⚪︎にぎゅっと抱きしめる。
(ど、どういうこと…?!)
マークの両腕に包まれながら、私はドキドキしていた…
To Be Continued…..
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