第2話 パパとご対面!?(後編)
「ありがとう、またね!」
そう言って、ハイヤーから地面に降り立ちドアを閉めようとすると、マークがそのドアに手をかけた。
「え…?」
マーク「いいから」
マークは当然のようにハイヤーから降りる。
(…パパとご対面?)
私は不安と安堵が入り混じったような複雑な気持ちで、パパの元へ向かう。
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マーク「遅くなってしまってすみません!」
眉間にしわを寄せたパパの前に立ち、私より先にマークが謝った。
パパ「…君は?」
マーク「セント・ジュード学園の、マーク・ジョーンズです」
パパ「娘の通うコンスタンス・ビラードと、同じ敷地にある男子校だね」
「⚪︎⚪︎と友達になってくれて、ありがたいけど…」
パパは一瞬口をつぐんで、諭すようにマークを見据える。
パパ「高校生がこんな時間まで遊んでいるのは、褒められたことではないな」
マーク「すみません…」
「パパ、違うの!私が悪いんだよ。私が時間を忘れて」
パパ「電話の一本も入れられないほどにかい?」
「…映画を観てたから、携帯の音を消してたの。ごめんなさい、パパ」
マーク「俺がもっと早く、⚪︎⚪︎の時間のことを気遣うべきでした。申し訳ありません」
マークの眼差しは誠実さに満ち、その堂々とした態度にパパは目を細める。
パパ「いや、もういいんだ。君のような子が娘の友達になってくれて、嬉しく思うよ」
(パパ…)
マーク「そんな…こちらこそ」
パパ「⚪︎⚪︎、いい友達ができて良かったな」
「うん」
マーク「じゃ、俺はここで」
「今日は本当に、すみませんでした」
そういってハイヤーに戻ろうとするマークに、パパは声をかける。
パパ「…そうだ。もしよかったら、アップルパイを食べていかないかい?」
マーク「え…?」
「パパ、アップルパイって…ひょっとして、アレ?」
パパ「ああ、3連敗中の、アレだ」
きょとんとするマークに私は耳打ちする。
「パパの手作りアップルパイ…次の日がオフの時にしたほうがいいよ」
パパ「⚪︎⚪︎、今回はついに奇跡が起きたんだぞ」
「ほんと?まる焦げでもなく、生地が半生でもなく…」
パパ「シナモンと間違えてペッパーも入れてない」
パパは不敵な笑みを浮かべた。
(どうしよう…?)
「…らしいけど、マーク、チャレンジしてみる?」
パパ「そんな命がけみたいに言うんじゃない」
「だって…」
すると、マークは楽しげに笑い、パパに言う。
マーク「アップルパイ好きだしすごく食べてみたいんですけど」
「こんな遅くにお邪魔するのも悪いのでまた別の機会に食べに来てもいいですか?」
パパ「ああ、わかった。それまでにさらに腕を磨いておくよ」
パパは嬉しそうに頬をほころばせ、マークに手を差し出す。
パパ「これからも、友達でいてやってくださいね」
マーク「はい」
二人、力強い握手を交わした。
マーク「それでは、失礼します」
爽やかな笑顔で踵を返そうとしたマークは、あっと声をあげて止まる。
マーク「そうだ、これ渡すの忘れてた」
そう言ってポケットから何かを取り出す。
マーク「⚪︎⚪︎、これ、良かったら…」
マークにて渡されたのは、1枚のフライヤー。
「クラブ…イベント?」
フライヤーに書かれた文字を読むと、パパも覗き込んでくる。
パパ「なになに?」
マーク「これは週末のイベントだから…門限は12時、ですね?」
パパ「その通り」
パパはマークが誘ってるから安心してるみたいだけど、私は正直なところ気が進まないでいた。
(セレブ達がお酒を飲んで開放的になるような場所は、しばらく行きたくないな…)
「…行けたら、行くね」
無難そうに答えると、マークは私の気持ちを察したのか、微妙な笑みを返す。
マーク「じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
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家に入ると、私はまず、パパの前にまっすぐ立つ。
「パパ、心配かけてごめんなさい。家の前で、どれくらい待ってくれてたの?」
パパ「どれくらいだろう?地球が一周したくらいの時間かな?」
「丸一日?」
パパ「それくらいに感じたということさ」
パパが家の前で心配そうに立っている姿を思い出し、
私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
パパ「だけど、待ってた甲斐があったよ」
「え?」
パパ「遅くなったのは良くないが、いい友達ができたと知って、ホッとしたからね」
「パパ…」
パパ「教育者である身でこんなことを言うのはおかしいかもしれないけど」
「学校で一番学ぶべきことは、勉強ではなく友達付き合いだと、パパは思っているんだ」
「…うん」
パパ「私たち両親の都合で、⚪︎⚪︎に苦労をさせてるよね」
「慣れない外国に来て、英語で授業を受けるのは本当に大変だと思う」
「だから、⚪︎⚪︎の支えになってくれるようないい友達ができることを」
「パパは心から望んでいたんだ」
パパの言葉が胸に染み、私は涙が出そうになる。
「パパ、お茶淹れるね…!」
涙を見せまいと、笑顔を作ってキッチンへ向かう。
パパ「ああ。アップルパイ、毒味会を始めるとしよう」
パパは嬉しそうにそう言った。
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夕食の後、成功したパパのアップルパイを堪能した私は、入浴の支度をしようと自室へ入る。
すると、携帯が音を鳴らした。
「『ゴシップガール』からだ」
今日は、クラスの子に勧められ、しぶしぶサイトの登録をしたのだった。
マンハッタン中にいる匿名の情報提供者から、
アッパー・イースト・サイドに住むセレブのゴシップ情報が入ってくるサイト『ゴシップガール』。
(セリーナやブレアはサイトを賑わす常連のようだけど…)
友達の話題をゴシップで知るのは少し気が引けるけど、
私は登校して最初に配信された情報を、恐る恐る見てみることにした。
「…え?!」
携帯を持つ手が震える。
そこに載っていた話題の人は、セリーナでもブレアでもなく…私だった。
ゴシップガール『マークと謎の女、もう家族ぐるみな関係?』
その見出しと共に掲載されている写真は、まさについ先ほどの、うちのアパートメント前での光景。
マークの顔が中心に大きく写っていて、その横の私は半分見切れている。
(いつの間に…撮られてたの?)
背筋がぞっとしながらも、マークのことを、改めて有名人なんだと認識。
(こんな顔半分の私といるだけで、話題になっちゃうんだもんな…)
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次の日。
(なんだか…みんなの視線が気になる)
『ゴシップガール』を見たのだろうか、
学校の廊下を歩いていると、すれ違う学生たちが私を見て、あっという顔をして過ぎ去っていく。
(同じ学校だと、顔半分でもわかるのか…)
小さくため息をついていると、セリーナが声を掛けてきた。
セリーナ「⚪︎⚪︎!」
後ろから私の前に回り込むようにして立ちはだかると、にっこりと微笑む。
「セリーナ」
セリーナ「そういうことなら、言ってよね!」
「ひょっとして…顔半分のこと?」
セリーナ「ふふ…せっかくなんだからもっと写り込んじゃえばよかったのに」
「セリーナ、言っとくけど、あれ違うからね!」
セリーナ「マークとなら、お似合いだと思うけど」
「ほんと、そういうんじゃなくて」
セリーナ「そうなの?家族ぐるみっていうのは…?」
「…パパとあったのは事実だけど、会っただけだし」
セリーナ「ふう〜ん」
セリーナは形のいい眉を上げて、私を見透かすように微笑む。
「あ、その時はね、これをもらったの。イベントのフライヤー」
私はセリーナのからかいの視線から逃れるように、カバンからフライヤーを取り出した。
セリーナはそれに目を落としてすぐに、パッと笑顔になる。
セリーナ「楽しそうじゃない!⚪︎⚪︎行くの?」
「迷ってるとこ」
セリーナ「マーク主催なのに?」
「え?」
よく見ると、フライヤーのイベントタイトルの横に、
小さく Event Organizer/ Marcの文字が。
(ちゃんと見てなかった…!)
セリーナ「マークのイベントってハズレないよ?彼ってほら、センスいいから」
「…そうなんだ」
マーク主催だとは知らず、昨日フライヤーを渡された時、
あまり色よい返事をしなかったことを少し後悔する。
(行けたら行く、なんて、愛想のない返事しちゃったな…)
セリーナ「じゃあ、スタート時間にクラブの前で」
「え、まだ行くと決めたわけじゃ」
セリーナ「行かないって決めたわけでもないよね?」
「そうだけど」
セリーナ「なら、行った方が正解!」
「だってほら、行って、もしつまんなかったら、帰ればいいだけでしょ?」
「行かないで後から行けばよかったーなんて思うより、ずっとポジティブだと思わない?」
「まあ、たしかに」
セリーナ「よし、じゃあ、今週末は一緒に楽しんじゃおう!」
セリーナに押し切られ、私はクラブイベントに行くことになった。
To Be Continued……
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