第3話 きらびやかな夜(後編)
二人、バーカウンターに腰を下ろした。
マーク「何飲む?」
「コーラにする」
マーク「じゃあ、俺も隣の優等y生にならってコーラ」
バーテンダーにそう告げると、マークは長い足をもてあますようにして、体をこっちへ向ける。
マーク「⚪︎⚪︎ってさ、映像とか前から興味あるの?」
「マークみたいに専門的なことはわからないけど、昔から好きだったよ」
「映像に限らず、美術とかデザインに興味あるんだよね」
マーク「将来はアーティスト?」
「アーティストというよりは、そういうものを伝える仕事がしたいんだ」
「ファッション誌の編集とか」
マーク「へえ、ファッション誌か。いいね」
「叔母がスタイリストをしてるから、素敵なドレスをいっぱいくれるの」
「そういうので、自然とファッションの世界に惹かれて、いろんな話を聞いてるうちに」
「届ける側の仕事がしたいなって思ったんだ」
バーデンダーが差し出したコーラで、2人、乾杯すると、マークは涼しげな目をして私を見る。
マーク「ちゃんとしてるね、⚪︎⚪︎って意外と」
「意外とって…私、適当な人間だと思われてたんだ?」
マーク「意外って言ったのは、絶対的な意味じゃなく相対的な意味ね」
「数学が苦手なくせに理屈っぽい」
マーク「あはは…。言いたかったのは、この街の高校生っぽくないってこと」
「だって学校のみんな、今度アイビー・ウィークのことで頭がいっぱいでしょ」
「それで将来のことを考えてる気になってる」
「アイビー・リーグの大学へ入学したら、将来は保障されたようなものだからね」
アイビー・リーグとは、アメリカの東部にある名門私立大8校からなる連盟のこと。
各大学の代表者が高校を訪問するアイビー・ウィーク。
なかでもその親睦会は、学生たちが自分をアピールする絶好の機会になると聞いた。
「マークは、アイビー・リーグに進学しないの?」
マーク「どうかな」
「余裕って感じ」
「やっぱり将来、社長になったらアイビー・リーグの学閥とか大事になってくるんでしょ?」
マーク「…ほんと、困っちゃうよね」
マークは小さく苦笑しながらコーラを傾けた。
すると、マークの隣に男性が掛ける。
友人「よお、マーク!」
マーク「おっと、スティーブじゃないか」
「ハイ、元気?」
スティーブ「お隣の可愛い子、誰だよ。彼女?」
マーク「教えなーい」
スティーブ「えー?彼女じゃないんだったら紹介してもらおうと思ったのに」
マーク「そうだろうと思った。だから、教えない」
スティーブ「なんだよ、マークらしくないなあ、もったいぶって」
スティーブがマーク越しに微笑みをかけてくる。
スティーブ「ハイ、マークの彼女。名前は?」
「⚪︎⚪︎。ちなみに彼女じゃないよ」
マーク「俺の彼女ってことにしておいたほうがスティーブに狙われずにすむのに」
スティーブ「⚪︎⚪︎、俺の2番目の彼女にならない?このあとデートとか?」
マーク「ほら、めんどくさそうでしょ?」
スティーブ「大丈夫、ニコールとはここへ来る前にデートしてきたから」
「スティーブ、私、ダブルヘッダーはお断りよ」
スティーブは大げさに頭をかかえる。
スティーブ「オーマイゴッド!マーク、今度の彼女は手強そうだな。これまでとは一味違う」
そういってニヤッと笑った。
(マークってこれまでどんな彼女と付き合ってきたんだろう?)
そんな疑問もわいてきたけれど、マークを介すると、
初対面のスティーブとも気兼ねなく話せていることに、なんだか嬉しくなる。
マークとスティーブがまた軽妙なトークを始めたところで、セリーナからメールが届いた。
セリーナ『行けなくてホントごめんね。どう、楽しんでる?』
私はすぐに返信を打つ。
『楽しんでるよ。来て良かった。セリーナの言った通りだね』
返信し終えると、スティーブがマークに手を挙げ、カウンターから去る。
マーク「お父さんに連絡?」
「ううん、セリーナ。楽しんでる?ってメールきたから」
マーク「なんて返したの?」
「楽しんでるよ、って」
マーク「そっか」
マークはちょっと嬉しそうにしながら、
バーテンダーにコーラのお代わりを注文し、私の方へ向き直るように体を向ける。
マーク「俺も」
「え?」
マーク「俺も今日、すっごく楽しい。⚪︎⚪︎に作品気に入ってもらえて、嬉しかったし」
「ここにいるみんなも、気に入ってると思うよ」
マーク「そっかな。みんな踊りに夢中だけど」
「まあ、どんな形であれ、楽しんでくれれば俺としてはハッピーなんだけどね」
「いつもみんなに好評だって聞いたよ。マークのイベント」
マーク「俺が雇った忍びの広報マン、いい仕事してるようだな」
「ふふ…」
それから、途中、何度も色んな友人に声をかけられていたけど、
結局、マークはずっと私のそばにいてくれた。
_______________________
イベントは大盛況のうちに幕を閉じ、マークと2人、クラブの外に出る。
「ほんと楽しかった。誘ってくれてありがとう」
マーク「こちらこそ、ありがとう。送ってくよ」
そう言ってマークはタクシーを拾おうとして、ハッと何かに気づく。
マーク「あれ?」
後ろのポケットを探ってから、頭をかいた。
マーク「やばい、携帯、店の中に忘れてきたみたい」
「ゴメン、ちょっと待ってて」
「うん、わかった」
一人、外でマークを待っていると、チャックとネイトとブレアがお揃いで登場。
ブレア「⚪︎⚪︎じゃない」
ネイト「どうしたの?こんなところで」
「マークが携帯を取りにお店に戻ってるから、待ってるの」
ブレア「ほんとに携帯を取りに戻ったのかしら?」
「…え?」
ブレア「他の子と約束があったんじゃない?」
チャック「今頃、誰もいないクラブでよろしくやってるかもな」
「…マークはそんな人じゃ」
チャック「ついこないだ現れたばかりの転校生に、マークの何がわかるっていうんだ?」
(確かに…何も知らないけど)
ネイト「チャック、そうつっかかるなよ」
ブレア「もういきましょ」
チャック「未来の夫人になったつもりのところで悪いが、教えてやろう。お前はマークに遊ばれてるだけだ」
「…遊ばれてるも何も、ただの友達だから!」
チャック「ふん」
ネイト「⚪︎⚪︎、ごめん。チャック飲みすぎたみたいで」
ネイトは私にそう言って、チャックの肩に手を回して連れ去っていく。
歩く三人の背中をボーッと見送っていると、
チャックは途中でうざったそうにネイトの手を振りほどいた。
(遊ばれてるって…ずいぶんな言い方よね)
チャックに腹を立てながらも、私は心のどこかでショックを受けている自分に気づく。
(…確かに、私はマークのこと、ほんの少ししか知らない)
(マークが優しいから一緒にいてくれてるだけなのに、ちょっと知ったような気になってたかも)
マーク「⚪︎⚪︎!ごめんごめん」
携帯電話を手に戻ってきたマークは、私の顔を見て少し不思議そうにする。
マーク「…どうした?」
「ううん…なんでもないよ」
それでもマークは心配げに私の目を見ている。
心を読まれまいと、私は…
「タクシー!」
タクシーに手を挙げた。
マーク「そんなの俺がやるのに…」
ちょうどやってきたタクシーが停まる。
(良かった。黄色いやつだ)
「こないだ教えてもらった通り、ほら、イエローキャブをつかまえたよ。合格でしょ」
マーク「一応ね」
「一応?」
マーク「俺といるときは、⚪︎⚪︎はタクシーに手を挙げなくていいよ」
そう言ってタクシーのドアを開け、私を中へ促した。
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タクシーに乗ってからも、チャックの言葉が私の頭の中でリフレインしている。
(『遊ばれてる』だなんて…だいたいそんなヒドイことする人に見えないし)
(それに、そもそも私のこと女としてなんて…)
マーク「…っていうのがスティーブとの出会いなんだよね」
「…あれ?⚪︎⚪︎?」
「えっ!?」
マーク「上の空って感じだったけど…?」
「う、ううん、聞いてたよ。ええと、スティーブの話だよね」
マーク「そう、スティーブがホットドッグ早食いチャンピョンになったって話」
「すごいよねー、スティーブ」
マーク「…彼、ベジタリアンだけどね」
「え…」
マークの罠にまんまと引っかかった。
マーク「クラブの中じゃ楽しそうに見えたんだけど…急に元気なくなっちゃったな」
「そんなこと、ないよ」
マーク「…ならいいけど。何か悩みがあるんなら、俺でよければいつでも聞くから」
「うん…ありがと」
マークの優しさが、私の胸を締め付けた。
To Be Continued……
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