第4話 パーティーの同伴者
??「あれ?⚪︎⚪︎ちゃん」
「え?」
名前を呼ばれて、私は振り返る。
そこに立っていたのはマーク。
隣にはアレックスとアイザックの姿も。
マーク「そっかー、キミもコンスタンスなんだ」
「え?あの…」
私は改めて3人の姿を眺める。
3人ともブレザーに赤のストライプのネクタイ。
コンスタンス・ビラード校と同じ敷地内にある男子校…セント・ジュード学園の制服だ。
ブレア「ちょうどよかった。はい、これ」
ブレアがパーティーの招待状を3人に渡す。
アレックス「キス・オン・ザ・リップス…」
アイザック「パーティーか」
ブレア「最高にイケてるパーティー。今週の土曜日だから、来てね」
マーク「⚪︎⚪︎ちゃんも来るの?」
マークが私に聞く。
「え?あ、私は…」
ブレア「彼女はパーティーには興味がないみたい」
ブレアが遮るように言う。
マーク「興味、ないんだ?」
「え、あの…」
マークだけじゃなく、アイザックやアレックスも私を見る。
「どっちでもない…って言うか、よくわからない」
アイザック「わからない?」
「日本にはあんまりこういうパーティーの習慣ってないから」
アレックス「ふーん」
「高校生がクラブで貸し切りにしてパーティーって、ちょっとびっくり」
ブレア「へぇー、つまんないのね、日本の高校生って」
マーク「わからないんだったら、体験してみるしかないよね」
マークが『キス・オン・ザ・リップス』の招待状をぴらぴらと振ってみせる。
「でも、私は呼ばれてないから」
アレックス「呼ばれてない?」
アレックスがちらっとブレアの顔を見る。
ブレア「招待状、彼女の分はないのよ」
ブレアは悪びれる様子もなく言う。
ブレア「パーティーの招待客リスト作ったの、もうずいぶん前だから」
ブレアは私を見て言う。
ブレア「残念ねー。もう少し早く知り合っていたら、あなたの分の招待状を準備したんだけど」
「…ありがとう。気にしないで」
私はなんとか笑顔を作って返事をする。
マーク「『招待状がないから』なんて堅苦しいこと言わないで、彼女も呼んであげればいいじゃん」
ブレア「そういう訳にはいかないわ」
「『キス・オン・ザ・リップス』は選ばれた人間しか来られない、特別なパーティーなの」
アイザック「ブレア女王に選ばれた人間だけが、参加できるって訳か。たいそうなことだ」
嫌味っぽく言うアイザックをブレアは軽くにらむ。
アレックス「⚪︎⚪︎だっけ?」
アレックスが突然、私を見て言う。
「はい?」
アレックス「俺の同伴者ってことで、参加してみれば?」
「同伴者?」
ブレア「ちょっと、アレックス」
アレックス「何?なんか問題ある?」
「俺がパーティーに誰を同伴しようと自由だろ?」
ブレア「そ、それは…」
口ごもるブレアを見て、マークが楽しそうに笑う。
マーク「最高だね、アレックス」
アイザック「さすがのブレア女王様も、王子が選ぶ相手には文句は言えないよな」
ブレア「…」
ブレアは顔を引きつらせたまま、何も言わない。
アレックスは私の顔を見る。
アレックス「っていうことで、話は決まりだな」
「ちょっと待って、そんな勝手に決めないで」
アレックス「は?」
「私、パーティーに行くつもりはないわ」
アレックス「俺の誘いを断るってこと?」
「ええ。悪いけど…」
ブレア「呆れた…」
「え?」
全員が少し驚いたように私を見ている。
マーク「王子のお誘いを断るとはねー」
アイザック「度胸の据わった女だな」
「あの…?」
訳が分からず、私はそばにいたジェニーに目配せする。
「どういうこと?」
ジェニー「どういうことって、そのままの意味」
「そのままって…」
(「王子」ってあだ名だよね?)
マーク「あんまり王子の機嫌を損ねないほうがいいと思うよ。国際問題に発展しかねない」
(国際問題…?)
ますます訳が分からなくなってくる。
「あの…」
アレックスはじろりと私を見る。
アレックス「家はどこ?」
「え…あ、アッパーイーストの…」
目力に負けて、私は素直に自分の住所を言ってしまう。
アレックス「じゃあ、土曜日8時に迎えに行くから」
「え?あの…」
返事も待たず、アレックスはさっさと歩き出す。
マーク「じゃあね」
マークとアイザックもアレックスを追って、去っていく。
「ちょっと…」
見ると、ブレアがすごい顔で私をにらんでいる。
(まずいよ…)
ブレア「来るなら勝手に来ればいいわ」
「え?」
ブレア「ただし、うちのパーティーにふさわしい格好してきてよね」
そう言うと、ブレアはぷいっと私から目をそらした。
(本当にパーティーに行ってもいいのかな…?)
なんだかモヤモヤスッキリしない気持ちのまま、パーティーの日が追ってくる。
とりあえず「パーティーにふさわしい格好」をなんとかしようと、私は服を買いに出かけた。
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店員「いらっしゃいませ」
店内には素敵なパーティードレスが並んでいる。
色とりどりのドレスを眺めていると、だんだんテンションが上がってくる。
(やっぱりこういう特別な服を買うのって、楽しいよね)
とっかえひっかえ試着して、やっと「これ」という一枚に巡り会った。
店員「お似合いですよ」
「これなら、王子様と一緒にパーティーに行っても恥ずかしくないですよね?」
店員「王子様…ですか?」
店員さんが一瞬、怪訝な顔になる。
(うわっ!バカなこと聞いちゃった…)
「いや、あの…これ、お願いします」
店員「はい、ありがとうございます」
店員さんは何事もなかったかのように、にっこりと営業用のスマイルを返してくれた。