(本当にスゴイ人だったんだ…)
記事の内容が読んでみたくなり、雑誌を手に取る。
閲覧席へ向かうと、先日、クラブで会ったレオンが本を読んでいる。
(マークと一緒にいた人だ。お礼言っておかないと)
近づいて、声をかけてみることにした。
「こないだは…ありがとう」
ゆっくりと本から顔を上げたレオンは、表情を変えることなく口を開く。
レオン「俺が助けたわけじゃない」
そういうと、また本に目を落とす。
(マークとは正反対の、クールなタイプの人なのかな)
「でも、あなたが名刺を取り上げたから、彼らも逃げたわけだし」
レオン「…」
「それにしてもビックリしちゃった。2人が正義のヒーローみたいに現れた時は!」
「だって本当に絶体絶命のピンチって時にマークが…」
レオン「よく話す女だな。女は皆そうだけど」
(話しかけられたくない、のね)
「…ごめんなさい」
邪魔にならないように、私は一つ席を空けて座り、雑誌をめくり始めた。
すると、レオンはチラッと私の手元の雑誌に視線を送る。
レオン「ふーん」
「え?」
レオン「あいつは、幼い頃から脚光を浴びてきた」
「本人もそれを自覚して、期待に応えようと常に頑張ることが当たり前になってる」
(マークのこと、かな)
レオン「プレッシャーだらけの環境にめげることなく努力を続けてるところとか尊敬できるし…」
「信頼していい人間だぞ」
「…」
レオン「なんだその腑に落ちないような顔は」
「いや、あなたがマークのこと信頼してるのはわかったけど、どうしてそんなこと今ここで…?」
すると、レオンが少しだけ眉をひそめる。
レオン「マークが気になってしょうがないって顔してたから、解説してやったんだ」
「えっ…私が?ち、違うよ、気になったなんて…」
そう言ってから、目の前にマークの特集記事を広げていることに気づき、慌てて閉じる。
レオン「変な女」
レオンはクスッと笑った。
「あなたは、マークのこと小さい頃から知ってるんだね」
レオン「ああ」
「私は仲良くなったばかりだから、この記事見て驚いたっていうか…思わず手に取っちゃったの」
レオン「他人が書いた活字で知ってる人間の一面を知るのもどうかと思うけど」
「まあそれも知り方のひとつかもな」
「…」
私はマークをたたえる持参が並んだ記事を見つめ、
あらためて尊敬する気持ちと同時に、どこか寂しくもなった。
「世界が違うのかな…」
思わずそうもらすと、レオンが本から顔を上げ、驚いたように私を見る。
レオン「大体の女なら、注目されてる男と仲がいいことは自慢なのに…なぜ落ち込む?」
「…でも」
と、その時、私の隣に誰かが腰を下ろした。
??「面白そうな記事読んでるねー、なに、このイイ男」
「マーク!」
マークは自分の記事から目を上げると、ニコッと微笑む。
マーク「こないだ、帰ったらお父さん驚いてなかった?」
「うん。お泊まり会じゃなかったのか?って…」
すると、レオンが本を手にスッと立ち上がる。
レオン「じゃあお先に」
去っていくレオン。
マーク「あれ?行っちゃう感じ?」
マークの声にレオンは後ろを向いたまま手を挙げ、行ってしまう。
(せっかくマークが来たのに…)
すると、隣でマークがボソッとつぶやく。
マーク「さすが気が利く」
「え?」
マーク「いや、なんでも」
そういって、マークは雑誌を自分の前に持ってくる。
「さっきたまたま見つけて…ちょっと読んでみたくなったの」
マーク「そっか。レオンと一緒にここへ?」
「ううん、偶然ここで会ったんだよ」
マーク「ふうん…」
マークはすでに読んでいるはずの雑誌に目を落としたまま、そう答えた。
「マークとレオンって仲いいんだね」
マーク「まあね」
「レオン、マークのこと尊敬してるって言ってたよ」
マーク「ほんと?急にどうしちゃったんだろ」
「そんなこと言うヤツじゃないのに」
「本人の前では言えなくても心では思ってたんじゃない?私も、マークのこと尊敬してる」
マーク「どうしたの、⚪︎⚪︎まで」
「だって…この記事」
私はマークの特集記事に目を落とした。
マーク「でもな…」
マークは首を傾げながら視線を泳がせる。
マーク「自分の実力かどうか微妙だから」
「え?」
マーク「ほら、ここにも書いてあるけど…」
「必ず俺には、ジョーンズ・ピクチャーズ社長の息子って肩書きがついて回る」
「結局それに守られてるんだ」
「マーク…」
マーク「俺が父さんの子供じゃなかったら、ここまでの扱いになってたかどうか」
マークはそっと雑誌を閉じる。
マーク「恵まれた環境にいることはわかってるけど」
「俺は、真っ白な状態から本当の実力で勝負して、そこで認めてもらいたいんだ」
「専門的なことはわからないけど…でも、私はマークの作品好きだよ」
「ほんと、クラブで見た映像とかも、すっごい才能あるなーって思ったもん」
マークは頬杖をつき、私の方を見ると薄く微笑む。
マーク「…ありがと」
その力ない笑みに、なんとなく胸が痛んだ。
(もう…諦めてるみたいな顔してる)
(でも生まれた環境を変えることなんて、出来ないしな…)
陽も傾き、いつしか図書館のは、マークと私、二人だけになった。
すると、マークが腰をあげる。
(あ…行っちゃうんだ…)
と思ったら、近くの書棚からなにやら分厚い本を手に戻ってくる。
「『数式と統計学の仕組み』?数学苦手なのに」
マーク「ネイトがこないだポーカーでひどい目に遭ったって言ってたから」
「俺も負けないように統計学でも学んでおこうかと思って」
「ふーん」
マーク「…って、まったく頭に入ってこないけど」
そういってマークは目次から顔を上げる。
「目次でダメなら本編は厳しいかもよ」
マーク「でも何か読んでないとマズイでしょ、一応図書館だし」
「せっかく⚪︎⚪︎と二人で貸切状態だから」
(それって…どういう意味だろ)
マーク「あ、⚪︎⚪︎はもう帰りたかった?」
「う、ううん…そんなことないよ。私も、何か本をとってこよっと」
適当に本を手に取り戻ってくると、マークがクスッと笑う。
マーク「狙ってる?それ」
「え?」
見ると、その本の表紙には『続・数式と統計学の仕組み』とある」
(わっ…)
マーク「チャレンジャーだねー」
「まーね」
静かな図書館で二人、まったく興味のない本を手に持て余していると、マークが沈黙を破った。
マーク「俺さ…」
と、その時、
バタン…
図書館の扉が開く音。
男子の声「良かった、誰もいない」
女子の声「ほんとだね」
男子の声「ずっとこうしたかった…」
女子の声「…私もよ」
なにやら悩ましげな二人の会話ののち、キスをする音が聞こえてくる。
マークと私は、無言のまま顔を見合わせる。
マーク「邪魔しないように静かにしてようか」
「そうだね」
私たちは書棚の陰の閲覧席で、押し黙ることにした。
すると、二人の足音が近づいてくる気配。
マーク「!」
男子生徒がディープキスをしながら、女子生徒を壁へ追い込むように進んでくる。
その先に、私たちがいることも知らず…。
To Be Continued…..
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