2015年10月31日土曜日

第2話 渡せなかった宝物 (Party)


第2話 渡せなかった宝物


レオンの部屋で、マークのバースデーパーティーのプランを練る。
レオンの調べてきてくれた資料のおかげで、パーティー会場や料理やワインなど
は順調に決まって行った。

「あとは、サプライズプレゼントだね…」

レオン「そうだな….」

私たちはお互い資料を眺めながら、しばらく考え込む。

(せっかくだから特別なものにしたいんだけど)
(全然思い浮かばない….)

レオンも同じなのか、しばらく無言の時間が続いた。

レオン「….⚪︎⚪︎」

「何?」

レオン「日本は、今どういう季節?」

「春のはじまりかな。3月は卒業とか、そういうことがある月なんだ」

レオン「卒業…」

「何か思いついた?」

レオン「いや、日本にちなんだことだったら」
   「マークにとってはサプライズになるかもしれないと思ったんだ」

「なるほど。確かにそうだね」

レオン「日本の卒業っていったらコレ、っていうものはない?」

「日本の卒業か…」

私の卒業式のことを思い浮かべてみる。

「桜かな」

レオン「ああ、桜なら知ってる」
   「それはマークが喜びそうだけど、さすがに木を運んでくるのはちょっと無理だな」

「だよね」

レオン「そういえばマークが前に言ってたな。『いつか⚪︎⚪︎と日本に桜の花を見に行きたい』って」

「え?ほんと?」

(マークと日本か…楽しいだろうな)

新しい楽しみが増え、私は嬉しくなる。

レオン「他には?」

「あとは、卒業アルバムくらい…」

レオン「卒業アルバム…?」

「えっと、こっちでは何て言うんだっけ…そうだ、イヤーブック!」
「こっちの学校では毎年1冊作られてるけど」
「日本ではああいうの、卒業する学年でしか作られないの」
「高校の3年間の集大成アルバムなんだ」

そう言って、私たちははっとして顔を見合わせる。

レオン「集大成のアルバム!」
   「マークは次の誕生日で20歳になるし、0歳からの写真やメッセージを集めるっていうのは面白いかもな」

   「マークの20年分のイヤーブック」

「それにしようよ!マーク、絶対喜んでくれると思う」

レオン「じゃあ、決定だ」

「うん!」

私たちは思わずパチンとハイタッチする。

(素敵なサプライズプレゼントが見つかってよかった!)

「結局、会場もサプライズもレオンに頼っちゃったね」

レオン「そんなことない。⚪︎⚪︎の言葉がなかったら思いつかなかった」

「ほんと?」

レオン「ああ。それにまだ思いついただけだ。これからどうする?」

「うーん。マークのお父さんにも協力してもらえないかな?マークの子供の頃の写真とか必要だし」

レオン「そうだな。連絡してみよう」

レオンが早速マークの家に電話をかける。

(マークの子供の頃の写真か…)
(ちょっと見るの楽しみだな)

私はワクワクしながら、レオンを見つめる。

レオン「…ありがとうございます。それでは今から伺います」

マークのお父さんと電話しているレオンが、私に向かって親指を立てて見せた。
マークの家を訪れると、マークのお父さんは快く私たちを迎え入れてくれた。

ケビン「久しぶりだね」

「お久しぶりです。⚪︎⚪︎です…」

私は改まって挨拶をする。
固い表情の私を見て、マークのお父さんが笑った。

ケビン「楽にしなさい。今、飲み物を持って来させよう」

「あ、いえ!お構いなく」

ケビン「テーブルに運ばせておくから、いつでも飲むといい」

マークのお父さんはそう言うと、テキパキと指示を出し始めた。

(さすが大会社の社長さん…)
(ちょっと緊張しちゃうな…)

レオンはパーティーに出席する予定の人たちに、ビデオレターのメッセージをもらいに行っていた。
その間に、私がマークの写真を選んでおく予定だ。

「突然、お邪魔してすみません。それで、写真は…」

ケビン「ここの部屋にあるものがそうだ」

マークのお父さんが案内してくれる。

「えっ!?こ、これ全部ですか?」

ケビン「ああ。この部屋にある素材は何でも使ってくれて構わない」

「こんなにたくさん…」

そこは、アルバムなどの保管部屋のようだった。
何十冊というアルバムやビデオフィルムの数に、私は驚く。

(マークって、本当に愛されてるんだな…)

写真の量が、ご両親の愛を物語っているような気がした。

ケビン「私は一旦失礼するよ。何かあったらいるでも言ってくれ」

「ありがとうございます」

マークのお父さんが立ち去り、私は一人部屋に残される。

「全部見るのに、何時間もかかりそう…とりあえず、0歳の写真を探してみよう」

私は早速手前にあったアルバムを開く。

「わぁ、可愛い〜!」

最初のページにあった写真を見て、私は思わず声を上げた。
そこには生まれて間もないマークの姿が写っていた。

(特に目元当たりに今の面影あるなぁ)
(マークって、こんなに可愛らしい赤ちゃんだったんだ)

初めて見たマークの姿に、私は胸がキュンとする。

「これも可愛い。こっちも…!」

一枚一枚の写真に感動してしまう。
ふと気づけば、アルバム一冊目ですでに30分も経過していた。

「おっと!ダメダメ。こんなことしてたらいつまでたっても終わらないよ」

すべての写真をじっくり見たい気持ちをこらえ、私はアルバム作りに専念して作業を進めていった。

しばらく作業に没頭していると、ふと棚の片隅に置かれた箱を見つけた。

「何だろう、これ…」

私はその箱を開けてみる。
中にはカセットテープが並び、『Happy birthday Marc』と書かれていた。

(マークの誕生日のテープ…?)

私は首を傾げながら、テープを眺める。
ちょうどそこに、マークのお父さんが顔を出した。

ケビン「どうだ?作業は進んでるか?」

「はい。あの、これは何ですか?」

ケビン「ああ、それか…」

マークのお父さんは、私の持っていたカセットテープに目を向けた。

ケビン「それは、妻が残したテープだ」

「マークのお母さんが?」

マークのお父さんはカセットテープを手に取ると、懐かしそうに眺めた。

ケビン「妻が亡くなる前に、マークにメッセージを残したんだ。大人になるまで誕生日を祝えるようにと」

「そうなんですか?でも、ここにあるってことは…」

ケビン「まだ渡してない」

「どうしてですか?」

私の問いかけに、マークのお父さんがちょっと苦しそうに表情をゆがめた。

ケビン「…今までのマークでは、渡せなかった」

「今までは?」

ケビン「…」

マークのお父さんの携帯が鳴る。

ケビン「仕事だ。失礼」

マークのお父さんはそう言って、カセットテープを箱に戻すと、部屋を出て行った。

(こんな大切なもの、どうして渡せなかったんだろう…?)

その時、部屋の外で何やら話し声が聞こえた。

??「順調?」

「レオン」

どうやらすれ違ったマークのお父さんと挨拶を交わしていたらしい。
レオンは私の選んだ写真を眺めた。

レオン「…懐かしい写真だな」

「そっか。この頃はレオンとマークはもう出会ってるんだったね」

レオン「ああ。マークのお母さんが入院してた頃だ」

「…レオン、そのお母さんなんだけど…」

私はカセットテープのことをレオンに相談した。

レオン「マークへのメッセージか…」

「これを機会に聞かせてあげられないかなと思うんだけど、どうかな?」

レオン「…」

レオンもマークのお父さんと同様、少し複雑な表情を見せた。

レオン「これをどうするかは、マークのお父さんに任せよう」

「そう?でも、せっかくなんだから…」

レオン「実は、俺もずっと気になってたんだ。マークがお母さんのことをどう受け止めているのか」

レオンはそう言って少し声を落とした。

レオン「マークのお母さんが亡くなった後…本当に2、3年に一度なんだけど」
   「マークはお母さんが出演していた映画をひたすら見続ける時があるんだ」

「えっ?」

レオン「やっぱり、心のどこかに穴が開いたままなんだと思う」
   「普段ずっと気にしてるわけじゃなくても、ふとした拍子にそれを思い出すんだろう」

「そうなんだ…」

(マークが、そんなことを…)

いつも明るく朗らかなマークの心の中にある寂しさを思うと、私は胸が痛んだ。

「だからマークのお父さんも、今まで渡せなかったんだね…」

レオン「あいつはまだ完全には立ち直れていないんだと思う」
   「心の穴をどうふさいだらいいか、分からないまま…」

レオンはそう言って私を見つめた。

レオン「けど、今が立ち直るチャンスだと俺は思う」

「レオン…」

レオンの眼差しから、私のことを言ってるのだと分かった。

(余計なお世話かもしれないけど…)
(マークが立ち直れるなら、私にできることは何でもしたい…)

「私、マークのお父さんにもう一度話してみる」

レオン「…俺も行こう」

レオンが立ち上がる。

(マークが悲しみから一歩踏み出せますように…)

私はそんなことを考えながら、レオンと一緒にマークのお父さんのもとへと向かった。


____________________________

From: レオン
Title: カセットテープのこと

まだ言わないほうがいいと思う。マークはああ見えて人一倍繊細だからな。
だからその分、⚪︎⚪︎のこともちゃんと見てる。本当にお似合いな二人だな。



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