2015年8月1日土曜日

第10話 すれ違う2人(前編)


第10話 すれ違う2人(前編)



授業が終わり校舎を出る生徒の人波の中、私の足取りは重かった。

(家に帰るのが億劫だな…)

このところ、パパとの間にちょっとした冷戦が続いている。
その決戦が今夜だと、パパから言い渡されたのだ。
冷戦が始まったきっかけは、あの日の朝のやりとりだった。




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パパ「ところで進路のことなんだが、お前は結局どうしようと思ってる?」

サラダにドレッシングをかけながら、パパはあたかもふと思い出したようにそう切り出した。

(唐突だな…)
(もしかして、ずっと気になってたのかな?)

「ちゃんと考えてるよ」

パパ「前に、アイビーリーグの大学へは進まないようなこと言っていたけど、その考えは今はどうだ?」

「変わってない。だって私そんな格式高い大学は必要ないもの。ファッションの道へ進みたいから」

パパ「うちの大学で社会学や経済学を学んでからその道へ進んだ人間もたくさんいるぞ」

「私は専門的な勉強が早くしたいの。名門とかにも興味ないし、そういうのを笠に着て威張ろうとも思わない」
「名門じゃなくていいからファッションの美術科がある大学に進みたい」

パパ「…⚪︎⚪︎が名門大学を嫌いなのはよくわかったが」
  「⚪︎⚪︎が目指そうとしているファッションの道は、本当にお前じゃなきゃ務まらないのか?」

「え…?」

パパ「外見を飾り立てる仕事に本当に誇りを持てるのかと訊いている」

「パパ…私にアイビーリーグをすすめてるのって」
「ファッションの道に進んで欲しくないからだったの!?」

パパ「…恵美子はああいう人間だからファッションの世界に溶け込んでいるが」
  「お前がそういうタイプには思えない。もっとまともな…」

「まとも…?まともじゃないと思ってるんだ。それで反対したいだけなんだ!?」

私は朝食の途中で席を立ち、カバンを掴み取ると無言のまま学校へ向かった。





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(あれから今朝まで、一言も会話してないんだよな)

結局、私の足は家へ向かうことなく、学校の中庭へ引き返していた。
ベンチに腰を下ろし、一人考えあぐねる。

(どうしたらいいんだろう…?)

将来について悩みを抱えているといえば、マークも同じはず。
マークにあって相談したいと思うも、このところ学校で見かけることはなかった。

セリーナ「ハイ、⚪︎⚪︎。どうしたのぼーっとしちゃって」

セリーナがブレアと一緒にやってくる。

「ちょっとね…」

2人は顔を見合わせ、少し心配そうに私の左右に腰をおろす。

セリーナ「どうしたの?」

「2人は…受験とかどうしようと思ってる?」

ブレア「受験で悩んでるのね」

「うん…」

ブレア「私はイェール大学しか考えてないわ。イェール大で経営学を学んで将来は大企業の経営者になるの」
   「ママの会社を超えるほどのね」

「すごい…セリーナは?」

セリーナ「私はブラウン大だな。自由に科目を選択していろんな学問にトライできるか」   
    「そういう環境って私にあってる気がするし」

「二人とも…ちゃんと未来が見えてるんだね」

セリーナ「⚪︎⚪︎だって夢があるじゃない」

「そうなんだけど…」

(セリーナやブレアは、親もその道を応援してくれてるんだろうな)

イェール大、ブラウン大はともにアイビー・リーグだけれど、
二人はそういうブランドの魅力を超えたところに、しっかりと自分の道を見据えているように思えた。




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二人と別れ、学校を出る。

(マークに会いたいな…)

なんとなく、足がマークの家の方へ向かう。
心のどこかでマークと会えることを期待していると、信号待ちで止まったところで後ろから肩を叩かれる。

(…ひょっとして)

笑顔で振り返ると、そこにはレオンがいた。

レオン「やあ…⚪︎⚪︎」

「…ハイ、レオン」

レオン「こんなところで…何してる?」

「ああ、えっと…」

泳がせた視線の先にあった店の看板の文字を読む。

「ハーベスト…ハーベストって店を探して…えっと、美味しいお店だって聞いたから」
「あ、あんなところにあったんだ…」

レオンはチラッとその店を見やる。

レオン「…閉まってるみたいだけど」

「ほ、ほんとだ…残念、定休日か」

すると、レオンは私の目をそっと覗き込む。

(え…)

レオン「…大丈夫?」

「…?」

レオン「ちょっと、元気なさそうな感じ」

レオンは何も言わず、私を見つめる。

(レオンも、しっかり将来の道筋は決まってそう…)
(進路のことを相談しても、かえって困らせるかもしれないな)

私が黙っていると、レオンは躊躇いながら口を開く。

レオン「…もしかして、この前のこと気にしてる?」

「え?」

レオン「デビュタント舞踏会で…その、バルコニーでさ」

「あ…ああ!そうじゃないの!進路のことでうちの頑固親父と対立中で、今夜が決戦なんだ」
「それでちょっと緊張してたんだけど、でも大丈夫だから!」

すると、レオンは力が抜けたように微笑む。

レオン「俺は大丈夫じゃないけど…ま、⚪︎⚪︎らしいか」

「え?」

心臓のあたりを親指で指すレオン。

レオン「…少しだけココが痛いけど。俺のこと眼中にないってわかって」

「ち、違うよ、そうじゃなくて…あー、どういえばいいんだろ…」

頭をかかえる私を見て、レオンはクスと笑う。

レオン「冗談だよ。困らせるつもりはない」

「…うん」

レオン「じゃあ、ハーベストも閉まってることだし、また次にすれば?」

「ハーベスト?」

(あ、さっきの店か)

「そ、そうだね」

レオン「じゃあな」

レオンはそう言って少し歩いた所で、ふとこちらを振り返る。

レオン「マークなら、今は誰の電話にも出ない。アイツ…今何かと戦ってるって感じだから…」

そういうと、軽く手を上げて去っていく。

(…そうなんだ)

レオンにすっかり行動を見抜かれていたことよりも、
『マークが闘ってる』という言葉が気になって仕方ない。

(この前の記事と、何か関係あるのかな…)




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その日の夜、マークの携帯にまたメッセージが入った。
少し疲れた表情で、携帯を見やるマーク。
いくつものメッセージがすでに入っているものの、いまだ折り返してはいない。

男性「マーク、最近クラブに顔出さないけど、どうしてるんだよ?」

女性「マークの携帯っていつの間に私のメッセージ保存BOXになったの?」

男性「おまえがいないから夜がつまんないな。今日もクローバーにいるから来いよ」

いくつか再生してみたものの、マークの表情は変わらない。

ところが

さっき入ったばかりのレオンのメッセージを再生し、マークの表情は一変した。

レオン「マーク…俺だ。なんだか、⚪︎⚪︎が悩んでるみたいだった…」
   「まあ、俺じゃ解決できないから。それ、伝えたかっただけだ…」

そこでメッセージは終わり、マークはすぐにレオンに折り返す。

マーク「レオンか?」

レオン「驚きだな…地球にまだいたのか、マーク。宇宙船に乗って旅に出たって噂だったけど」

マーク「…さっきの話、詳しく聞かせて」




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パパは決戦に備え、いつもより早めに帰宅した。
リビングで待ち備えていた私に向かい合うように腰を下ろしたパパは、硬い表情で口を開く。

パパ「さっそく始めようか。私が言いたいことはただ一つだ。こないだの朝、お前が言ってたように」
  「⚪︎⚪︎がファッションの道に進むことを私が快く思っていないのは、事実だ」
  「さらに言うと、まだ17歳のお前が少ない情報に踊らされ」
  「未来の可能性を限定してしまっていることが残念でならない」

「パパが言ってる名門大に進めば、今より可能性が広がるって言うの?」

パパ「当たり前だろう。学問だけじゃない、そこで出会える人の影響で」
  「自分が進むべき道が見えてくることだってあるんだぞ」

「それがどうして大学じゃなきゃいけないのかがわからないの」
「高校だって、出会った相手によって影響を受けることもあると思う」
「実際、私、いろんな人から刺激をもらってるし」

パパ「その結果がファッションか?毎週末のように出かけることはとやかく言うつもりはない」  
  「でもな、お前がこの辺りの大人ぶった高校生から何を吸収しているのか、それが問題なんだ」

パパの言葉が、セリーナやブレアを侮辱しているように聞こえて、私は頭に血が上った。

「パパに何がわかるっていうの!」

と、その時、家のチャイムが鳴る。




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ドアを開けると、そこに立っていたのはマーク。

「!」

マーク「入れてもらっていい?」

突然訪れたマークに驚きながら、私は答える。

(マークは理由もなく他人の家に押しかけるような人じゃないから…)

私は事情を訊いてみることにした。

「いったい、どうしたの?」

マーク「ごめん、突然」
   「俺、お父さんを説得しに来たんだ」

「え…」

マーク「ちょっとお邪魔するよ」

マークは私の肩にそっと手を置くと、リビングへ進んでいった。




To Be Continued…….


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