2015年8月1日土曜日

第3話 きらびやかな夜(後編)


第3話 きらびやかな夜(後編)



二人、バーカウンターに腰を下ろした。

マーク「何飲む?」

「コーラにする」

マーク「じゃあ、俺も隣の優等y生にならってコーラ」

バーテンダーにそう告げると、マークは長い足をもてあますようにして、体をこっちへ向ける。

マーク「⚪︎⚪︎ってさ、映像とか前から興味あるの?」

「マークみたいに専門的なことはわからないけど、昔から好きだったよ」
「映像に限らず、美術とかデザインに興味あるんだよね」

マーク「将来はアーティスト?」

「アーティストというよりは、そういうものを伝える仕事がしたいんだ」
「ファッション誌の編集とか」

マーク「へえ、ファッション誌か。いいね」

「叔母がスタイリストをしてるから、素敵なドレスをいっぱいくれるの」
「そういうので、自然とファッションの世界に惹かれて、いろんな話を聞いてるうちに」
「届ける側の仕事がしたいなって思ったんだ」

バーデンダーが差し出したコーラで、2人、乾杯すると、マークは涼しげな目をして私を見る。

マーク「ちゃんとしてるね、⚪︎⚪︎って意外と」

「意外とって…私、適当な人間だと思われてたんだ?」

マーク「意外って言ったのは、絶対的な意味じゃなく相対的な意味ね」

「数学が苦手なくせに理屈っぽい」

マーク「あはは…。言いたかったのは、この街の高校生っぽくないってこと」
   「だって学校のみんな、今度アイビー・ウィークのことで頭がいっぱいでしょ」
   「それで将来のことを考えてる気になってる」

「アイビー・リーグの大学へ入学したら、将来は保障されたようなものだからね」

アイビー・リーグとは、アメリカの東部にある名門私立大8校からなる連盟のこと。
各大学の代表者が高校を訪問するアイビー・ウィーク。
なかでもその親睦会は、学生たちが自分をアピールする絶好の機会になると聞いた。

「マークは、アイビー・リーグに進学しないの?」

マーク「どうかな」

「余裕って感じ」
「やっぱり将来、社長になったらアイビー・リーグの学閥とか大事になってくるんでしょ?」

マーク「…ほんと、困っちゃうよね」

マークは小さく苦笑しながらコーラを傾けた。
すると、マークの隣に男性が掛ける。

友人「よお、マーク!」

マーク「おっと、スティーブじゃないか」
   「ハイ、元気?」

スティーブ「お隣の可愛い子、誰だよ。彼女?」

マーク「教えなーい」

スティーブ「えー?彼女じゃないんだったら紹介してもらおうと思ったのに」

マーク「そうだろうと思った。だから、教えない」

スティーブ「なんだよ、マークらしくないなあ、もったいぶって」

スティーブがマーク越しに微笑みをかけてくる。

スティーブ「ハイ、マークの彼女。名前は?」

「⚪︎⚪︎。ちなみに彼女じゃないよ」

マーク「俺の彼女ってことにしておいたほうがスティーブに狙われずにすむのに」

スティーブ「⚪︎⚪︎、俺の2番目の彼女にならない?このあとデートとか?」

マーク「ほら、めんどくさそうでしょ?」

スティーブ「大丈夫、ニコールとはここへ来る前にデートしてきたから」

「スティーブ、私、ダブルヘッダーはお断りよ」

スティーブは大げさに頭をかかえる。

スティーブ「オーマイゴッド!マーク、今度の彼女は手強そうだな。これまでとは一味違う」

そういってニヤッと笑った。

(マークってこれまでどんな彼女と付き合ってきたんだろう?)

そんな疑問もわいてきたけれど、マークを介すると、
初対面のスティーブとも気兼ねなく話せていることに、なんだか嬉しくなる。
マークとスティーブがまた軽妙なトークを始めたところで、セリーナからメールが届いた。

セリーナ『行けなくてホントごめんね。どう、楽しんでる?』

私はすぐに返信を打つ。

『楽しんでるよ。来て良かった。セリーナの言った通りだね』

返信し終えると、スティーブがマークに手を挙げ、カウンターから去る。

マーク「お父さんに連絡?」

「ううん、セリーナ。楽しんでる?ってメールきたから」

マーク「なんて返したの?」

「楽しんでるよ、って」

マーク「そっか」

マークはちょっと嬉しそうにしながら、
バーテンダーにコーラのお代わりを注文し、私の方へ向き直るように体を向ける。

マーク「俺も」

「え?」

マーク「俺も今日、すっごく楽しい。⚪︎⚪︎に作品気に入ってもらえて、嬉しかったし」

「ここにいるみんなも、気に入ってると思うよ」

マーク「そっかな。みんな踊りに夢中だけど」
   「まあ、どんな形であれ、楽しんでくれれば俺としてはハッピーなんだけどね」

「いつもみんなに好評だって聞いたよ。マークのイベント」

マーク「俺が雇った忍びの広報マン、いい仕事してるようだな」

「ふふ…」

それから、途中、何度も色んな友人に声をかけられていたけど、
結局、マークはずっと私のそばにいてくれた。


_______________________



イベントは大盛況のうちに幕を閉じ、マークと2人、クラブの外に出る。

「ほんと楽しかった。誘ってくれてありがとう」

マーク「こちらこそ、ありがとう。送ってくよ」

そう言ってマークはタクシーを拾おうとして、ハッと何かに気づく。

マーク「あれ?」

後ろのポケットを探ってから、頭をかいた。

マーク「やばい、携帯、店の中に忘れてきたみたい」
   「ゴメン、ちょっと待ってて」

「うん、わかった」

一人、外でマークを待っていると、チャックとネイトとブレアがお揃いで登場。

ブレア「⚪︎⚪︎じゃない」

ネイト「どうしたの?こんなところで」

「マークが携帯を取りにお店に戻ってるから、待ってるの」

ブレア「ほんとに携帯を取りに戻ったのかしら?」

「…え?」

ブレア「他の子と約束があったんじゃない?」

チャック「今頃、誰もいないクラブでよろしくやってるかもな」

「…マークはそんな人じゃ」

チャック「ついこないだ現れたばかりの転校生に、マークの何がわかるっていうんだ?」

(確かに…何も知らないけど)

ネイト「チャック、そうつっかかるなよ」

ブレア「もういきましょ」

チャック「未来の夫人になったつもりのところで悪いが、教えてやろう。お前はマークに遊ばれてるだけだ」

「…遊ばれてるも何も、ただの友達だから!」

チャック「ふん」

ネイト「⚪︎⚪︎、ごめん。チャック飲みすぎたみたいで」

ネイトは私にそう言って、チャックの肩に手を回して連れ去っていく。
歩く三人の背中をボーッと見送っていると、
チャックは途中でうざったそうにネイトの手を振りほどいた。

(遊ばれてるって…ずいぶんな言い方よね)

チャックに腹を立てながらも、私は心のどこかでショックを受けている自分に気づく。

(…確かに、私はマークのこと、ほんの少ししか知らない)
(マークが優しいから一緒にいてくれてるだけなのに、ちょっと知ったような気になってたかも)

マーク「⚪︎⚪︎!ごめんごめん」

携帯電話を手に戻ってきたマークは、私の顔を見て少し不思議そうにする。

マーク「…どうした?」

「ううん…なんでもないよ」

それでもマークは心配げに私の目を見ている。
心を読まれまいと、私は…

「タクシー!」

タクシーに手を挙げた。

マーク「そんなの俺がやるのに…」

ちょうどやってきたタクシーが停まる。

(良かった。黄色いやつだ)

「こないだ教えてもらった通り、ほら、イエローキャブをつかまえたよ。合格でしょ」

マーク「一応ね」

「一応?」

マーク「俺といるときは、⚪︎⚪︎はタクシーに手を挙げなくていいよ」

そう言ってタクシーのドアを開け、私を中へ促した。



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タクシーに乗ってからも、チャックの言葉が私の頭の中でリフレインしている。

『遊ばれてる』だなんて…だいたいそんなヒドイことする人に見えないし)
(それに、そもそも私のこと女としてなんて…)

マーク「…っていうのがスティーブとの出会いなんだよね」
   「…あれ?⚪︎⚪︎?」

「えっ!?」

マーク「上の空って感じだったけど…?」

「う、ううん、聞いてたよ。ええと、スティーブの話だよね」

マーク「そう、スティーブがホットドッグ早食いチャンピョンになったって話」

「すごいよねー、スティーブ」

マーク「…彼、ベジタリアンだけどね」

「え…」

マークの罠にまんまと引っかかった。

マーク「クラブの中じゃ楽しそうに見えたんだけど…急に元気なくなっちゃったな」

「そんなこと、ないよ」

マーク「…ならいいけど。何か悩みがあるんなら、俺でよければいつでも聞くから」

「うん…ありがと」

マークの優しさが、私の胸を締め付けた。


To Be Continued……




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