2015年8月1日土曜日

第8話 Bへのプレゼント(後編)


第8話 Bへのプレゼント(後編)



マーク「さ、自由に使っていいよ」

「…」

マーク「遠慮しないで」

「いや、あの…こんな高度なソフト、使ったことなくて」

マークの家に着くと、映像用の豊富なソフトを紹介され、
私はモニターの前に座り、ただ瞬きを繰り返していた。

「私が友達に作った動画って、無料の動画作成ツールを使った簡単なやつだから」

マーク「そんなに変わらないよ?」

「そうかな」

マーク「教えてあげる。ほら、ここはね…」

そういってマークは、椅子に座る私の後ろから一緒にモニターを覗き込むようにして、
ソフトの使い方を教えてくれる。

「あ、すごい、こんなこともできるんだ」

モニターから視線を後ろに移すと、思いのほかマークの顔が近くて思わずどきっとする。

マーク「あとはね…」

マークは気にする様子もなく、楽しそうに映像処理の手ほどきを続けている。
肩越しにマークの優しい声を聞きながら、私は胸の鼓動がなかなかおさまらないでいた。

(ちゃんと聞いておかないと…)

マーク「って、だいたいこんな感じだけど。できそう?」

(え?レクチャー終わり?)
(ほとんど頭に入ってない!)

「ごめん…もう一回、教えてもらっていい?」

また顔が近づくのを警戒してゆっくりと振り向くと。
今度はマークの方から覗き込むようにして私を見る。

(…マークって、ほんとに目が綺麗)

マーク「ん?どうした?」

「い、いや、なんでもない…」

マーク「何回でも教えてあげるけど…」
   「もしよかったら、俺がベースを作ろうか?」

「ほんと?」

マーク「それで、⚪︎⚪︎が考えたメッセージを入れて」
   「あと仕上げは二人のアイデアでまとめる…どう?」

「うん。助かる…ていうか、実はレクチャーほとんど頭入ってこなくて、焦ってたんだよね」

そう告白すると、マークはクスッと笑って私の頭を撫でる。

マーク「はい、じゃあ選手交代」

今度はマークが椅子に座り、私がその後ろで見守る。
マークの長い指が滑らかにキーボードの上を滑ったりマウスをいじったりしているうちに、
面白いようにモニターには映像が形作られていく。

(マーク、すごく生き生きした表情してる)

目にも鮮やかな操作で
あっという間にベースとなるムービーが出来上がる。

「さすが天才クリエーター」

マーク「茶化さないの」
   「それで、考えた?お祝いのメッセージ」

「考えたよ。ええと、『一生に一度だけの17歳のお誕生日おめでとう』」
「『カポーティは17歳でニューヨーカーの編集者になり夢への一歩を踏み出した』」
「『ブレアにもきっと大きな一歩が待っているはず』」

マーク「…すごくイイ!」

「よかった。ブレア、『ティファニーで朝食を』の大ファンだから」

マーク「イイニュースも持ってそうな伝説の日にぴったりのメッセージだね」

映像にメッセージを入れ、しばらくして全ての仕上げが終わる。

マーク「出来た。観て」

映し出された映像に、私は感動でため息を漏らした。




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ブレアの誕生に会当日。
会場は、知らされていた通り、料理からインテリアまで
ジャパニーズ・スタイルで統一されている。
寿司カウンターには、新鮮なネタがケースに並んでいて、
その向こうには鉢巻をした板前さんが何人も立っている。

(スゴイな…)

サプライズで流す動画のセッティングはすでに終わったものの、
案となく落ち着かない気分でいると、本日の主役のブレアが登場。

ブレア「⚪︎⚪︎。いらっしゃい」

「ハイ、ブレア。お誕生日おめでとう!」

ブレア「どうぞ、楽しんで」

どこか元気のない笑顔を浮かべ、ブレアは去っていった。

(…大丈夫かな?)

誕生日会で賑わうフロアを見渡すと、会場の隅にチャックを見つける。
一人、カウンターに掛け、日本酒の徳利を傾けている。

(今日は珍しく女の子をはべらせてないんだ?)

ぼんやりとフロアを見渡していると、レオンがやってきた。

レオン「どうしたの?飲み物も飲まないで」

「なんだか緊張しちゃって」

レオンは私を見下ろしたままフッと笑うと、どこかへ行ってしまう。

(いい加減こういう場にも慣れろ、ってことかな)

そう思いながらレオンの背中を見ていると、ポンっと肩を叩かれる。

マーク「やあ、⚪︎⚪︎」

「ハイ、マーク」

マーク「準備はバッチリ?」

「もちろん!」

すると、アレックスとアイザックは訝しげに近づいてくる。

アイザック「何を企んでる」

「何も?」

アレックス「お前ら二人、なんか怪しいな」

マーク「そう?気のせいじゃない?」

アイザック「ひょっとして、子供じみたサプライズプレゼントでも仕組んでるのか?」

「え…なんでわかっちゃうの?」

マーク「しーっ」

マークが私の口元に人差し指をあてた。
アレックスが腕組みをして、マークと私を見据える。

アレックス「俺が二人が怪しいって言ったのは、別の意味なんだけど」

(別の意味って…もしかして)

「…どうしてそんなこと」

アレックス「どうしてだろう。なあ、マーク」

マークは一瞬視線を泳がせるも、すぐに口を開く。

マーク「そりゃ、⚪︎⚪︎と俺の間には共有してる秘密がたくさんあるからね」

アレックス「ふん、さすがだな」

すると、アイザックが一人酒のチャックを見つける。

アイザック「あいつ、バーレスクの店を始めるとか言ってたな。詳しく話を聞いてみるか」

アレックス「ストリップか?」
     「好きだな、アイザックも」

アイザック「バーレスクだ」

そう言いながら、二人はチャックの元へ向かう。
いつも両手に女が定番のチャックは、男二人に挟まれて少し迷惑そうな様子。

マーク「…困ったもんだね。男って」

「マークは話聞かなくていいの?」

マーク「興味ないから」

「ほんとはあるくせに」

マーク「…ばれた?」

マークはおどけたように笑った。




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ドリンク二つ手にして、レオンは⚪︎⚪︎のもとへ戻ってくる。
フロアの中央で笑う⚪︎⚪︎を見つけた。
ところがその向かいには、楽しげに話すマークの姿。

レオン「…」

お似合いな二人にゆっくりと背を向けると、レオンは静かに引き返していく。




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(そろそろかな…)

パーティーも佳境に入った頃、突然映し出せれるマークの映像。
会場のみんなは驚きながらも、映像に夢中になる。

客「かっこいい、この映像!」

客「素敵だね!」

私のメッセージが流れ、会場には拍手が沸き起こる。
映像を見て驚いた様子おブレアも、嬉しそうに頰をほころばせた。

マーク「やった!」

マークと私は手を取り合って笑う。
近くにいたセリーナも興奮気味にやってくる。

セリーナ「⚪︎⚪︎、最高!」

「良かった」

セリーナ「今日一番のプレゼントになったんじゃない?」

「一番はネイ…あれ?そういえば、ネイトはまだ来てないんだね」

セリーナ「確かに…遅いね」

すると、後ろにいたアイザックが小さく言う。

アイザック「いや、ここにいるぞ」

「え?」

振り向くと、アイザックは見ていた携帯の画面をこちらへ向ける。
それは『ゴシップ・ガール』のサイト。
その記事に、私は息を飲んだ。


ゴシップ・ガール『ブレアの誕生日の今夜、タクシーに乗る女をハグして見送るネイトを目撃!』
        『確かなのはその女が、ブレアではないってことだけ』


(ウソでしょ…)

私が驚いたのは、そこに映る女の子の後ろ姿が、どう見てもジェニーだったこと。
気がつくと、会場のみんなが携帯で『ゴシップ・ガール』を見て眉を潜めている。

客「ネイト、浮気してたの?」

客「ヒドイよね」

セリーナ「ただのガセだよ!よくあることじゃん」

すると、ブレアが悲痛な表情で声を上げた。

ブレア「彼は浮気してない!」
   「だって…私たち別れたの」

(え…)

ブレア「付き合ってたのは、親同士の仕事をまとめるため」
   「ネイトはうちのママの会社と契約したい父親に服従してただけだったのよ!」

ブレアは泣きながら走り去る。

「…ブレア!」

私はブレアを追いかけた。




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別の部屋に駆け込んだブレアに声をかける。

「…大丈夫?」

ブレアは涙で濡れた顔を上げた。

ブレア「ネイトと仲直りすることが誕生日の願いごとだった…でも本当に終わりみたい」

「ブレア…」

ブレア「最悪の日になったけど…」
   「さっきのサプライズは、嬉しかったよ」

「…何か、私にできることはない?」

ブレア「ごめん今は、少し一人になりたい」

「わかった…」



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会場に戻ると、マークとセリーナが心配そうに近づいてくる。

マーク「どうだった?」

「一人になりたいって」

セリーナ「そっか…」

「でも、あのサプライズプレゼントは嬉しかったって…」

マークは静かに頷く。

「何か…暖かい飲み物、持って行こうかな」

マーク「俺も手伝うよ」

私たちはキッチンへ行き、ブレアのためにハーブティーを淹れる。

(普段、こういうことあまりしないだろうに…)

マークが慣れない手つきで手伝ってくれていることに、胸が熱くなった。



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ハーブティーをトレイに乗せ、ブレアのいる部屋の前まで来ると、少しドアが開いていた。
トレイを持ったまま、その隙間から声をかけようとすると…

(え!?)

部屋の中で、ブレアとチャックがキスをしている。
次の瞬間、マークが後ろから私の目を覆った。

(わ、ちょっと…どういうこと?!)



To Be Continued……


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