2015年8月1日土曜日

第2話 パパとご対面!?(前編)


第2話 パパとご対面!?(前編)




エイダン・ライトの映画は想像以上の面白さで、私は手に汗を握りつつ…バッグも握っていた。

(…ちょっと、警戒しすぎたかな?)

マークが親切心から、
部屋のスクリーンで観ようと提案してくれたと頭ではわかっているものの、
知り合って間もない男の子の部屋に二人きりということに、どうしても身を硬くしてしまう。

マーク「ここ、ここ絶対見逃さないで!」

「あ、うん…」

マークはソファの私から離れたベッドサイドから鑑賞しているし、
何より、一度たりとも私の方を見たりしない。
もう何度も見ているというこの映画を、食い入るように見つめている。

(それに、私みたいなの、女だと思ってないよね)

キス・オン・ザ・リップス・パーティーで、
艶やかに着飾った美女たちと親しげにしていたマークの姿を思い出し、
私は苦笑いを浮かべ、膝の上で握っていたバッグを横に置いた。
映画は、クライマックスを迎えている。

(すごい迫力!)

エイダン・ライトが得意とする怒涛の力ーアクションシーンが繰り広げられ、
思わず前のめりになる。

(あ、危ないっ…よし、そこだっ、行けーー!!)

息もつかせぬ迫力に、気づくと私はバッグから解放された手で握りこぶしをつくっていた。

(わ…恥ずかしい)

手を降ろそうとしてふとマークの方を窺うと、

(…え?)

マークも同じように両手の握りこぶしを振っている。

マーク「そこ!そこじゃん!」

スクリーンに熱中していたマークは、私の視線に気づきこちらを見た。
同じポーズをしている二人を見比べるようにして、

マーク「…ウソでしょ?」

二人して同時に吹き出す。

「真似しないで」

マーク「そっちこそ」

二人「あははは…」

映画は最後に用意されたどんでん返しとともに、
緻密に張り巡らされた伏線が見事に回収され、見終わった後には爽快な気分になった。

「面白かったー!」

マーク「5回目だけどやっぱり興奮したな」

「それだけ観てるとストーリーやセリフ、もう頭に入ってるでしょ?」

マーク「うん。でも何回だって観られるんだよね」
   「内容はわかってるつもりで、見るたびに新しい発見があったりするし」

「へえー、そうなんだ」

マーク「見る角度を変えてみたりとかして」

「角度って?」

マーク「今回は照明目線で見てみようとか、美術目線で見てみようとか」
   「スタッフの仕事ぶりに注目して観るのも楽しい」

「本当に映画が好きなんだね」

マーク「ちょっとマニアックだった?」

「ううん、そういう見方も面白そう。マークって、映画監督とか目指してるの?」

そう尋ねると、マークの笑顔が微妙に陰った。
どこか無視するように笑った後、腰に手を当て小首を傾げる。

マーク「ま、ほら、俺は社長っていう未来があるから」

「そっか。将来はジョーンズ・ピクチャーズの社長かぁ」

(未来が決まってるのって、どんな気持ちなのかな?)
(道が確保されてるとラクなのかな、それとも…)

マークの表情が、どこか冴えないことが気になった。

「マークのお父さんって、やっぱり偉い人だから…怖かったりするの?」

マーク「うーん…優しいけど、怖い」

「ん?」

マーク「ほら、尊敬する気持ちって、怖いに近くない?」

「お父さんのこと尊敬してるんだね」

まっすぐな目をして頷くマーク。

マーク「ジョーンズ・ピクチャーズは、知ってるかもしれないけど」
   「先代の俺のお祖父ちゃんの代で、一度会社が傾きかけたんだ」
   「ちょうど映画もデジタル化が進んでいる時代に、うちの会社は危うく取り残されそうになった」
   「それを救ったのが、二代目の父さん」

「経営者として才能がある人なんだ」

マーク「うん…それに、あんな派手な世界にいて、母さんが亡くなった後もずっと、母さん一筋だったんだよね」
   「そういうとこ、スゲーいいなーって思う」

「マークは尊敬できるお父さんから社長業を継ぐんだ。それって素敵だな」

マーク「…まあね」

マークは複雑な笑みを浮かべた。

マーク「⚪︎⚪︎のお父さんは、何をしてる人?」

「大学教授だよ。学生からは優しい先生で通ってるみたいだけど、自分の子供には厳しくて困っちゃう」

マーク「頑固親父的な?」

「というより心配性すぎて、いろんなルールが厳しいの。門限とかね」
「もう高校生だっていうのにまだ子供扱いするんだから」

マークは部屋の時計に目をやり、片眉をあげる。

マーク「門限って、何時?」

「週末は12時で、平日は8…え?!わ…マズイ!」

時計の針が9時を指しているのを見て、私は手を口に当てた。

「ごめん、帰るね!DVDありがとっ…」

ソファからバッグを掴み上げ、慌てて部屋を出て行こうとすると、マークが私を手で制する。

(…え?)

もう片方の手で内線電話を耳に当てるマーク。

マーク「リチャード?ああ、俺だけど、一台回してくれる?いや、今日はクラブに行くんじゃないよ」
   「はい、よろしくね」

電話を置いて、マークはニッコリと微笑む。

マーク「ハイヤーで送るよ」

「地下鉄の駅すぐだから大丈夫なのに」

マーク「そんなこと言わないで、ガム買いに行くの付き合って?」

「ガム?」

マーク「⚪︎⚪︎ん家の近くのスーパー、こないだ帰りにガム買ったらすっごく美味しかったから」

「…」

マーク「さ、ガム買いに行くよ」

「…ありがと」

(マークって、気が利くし、以外と紳士的)

周囲がいうようなプレイボーイっぽい軽薄さは、私には感じられなかった。

(って…わたしが女に見られていないだけか)

マークの食指が自分に対しては動いていないことで、
安心してその優しさを受け入れられる気がした。

「このハイヤー、乗り心地いいね!」

マーク「そういうの気になるタイプ?」

「…ううん、ちょっとカッコつけて言ってみたかっただけ」

マーク「ハハハ…正直」

「これまで、家の車かタクシーくらいしか乗ったことないから」
「ほら、前にブレアのホームパーティーからの帰り」
「初めてリムジンに乗せてもらったんだけど、緊張して乗り心地どころじゃなかったしね」

マーク「リムジンでリラックス出来なかったの?⚪︎⚪︎って特異体質なんじゃない?」

「だって、みんな未成年なのに普通にシャンパン飲んでるから、びっくりしちゃって」

マーク「…そう言われてみれば確かにそうか。俺たちの方が特異体質なのかも」

「でも、私も少しずつこの街や学校に慣れていかないとな」

マーク「まあ、無理して合わせる必要もないんじゃない?」
   「リムジンでリラックス出来ない体質も、個性なわけだし」

「そうかな」

マーク「映画見るときにこぶし握っちゃうのも、個性な訳だし」

「ふふ…それはお互い様でしょ」

マーク「やっぱりカーチェイスのシーンはどうしてもああなっちゃうよね」

「絶対なる!」

(マークとは育った環境も家柄も何もかも違うけど、映画に関することは驚くほど共通してるな)

マーク「そうそう、俺、あの後の主人公のセリフがめっちゃ好きで」

「あ、私も…えっと、これでしょ?」
「『もう俺には真実しか見えない』」

私が芝居がかった口調で台詞を言うと、マークは大きく頷く。

マーク「そう、それ!それまで散々迷って戦い抜いた後に言うんだもんなー」

「説得力あったよね。なんかジーンときちゃった」

マーク「俺も」

マークは嬉しそうに笑った。
車窓からの景色が見覚えのある風景になってくる。

「ハイヤー出してくれて、ありがとね。…あ、じゃなくて、ガムを買いに来たんだっけ」

マーク「そうだよ」

私は時間を見ようと携帯電話を取り出す。
すると、

「…え?!」

恐ろしいほどの着信の数に、思わず声を上げた。

マーク「どうしたの?」

「パパから…物凄くたくさん着信が」

マーク「心配して?」

「たぶん…あ、そうだ、私ったら映画観るとき携帯の音消して、そのままにしちゃってた…」
「どうしよう?」

マークは何も言わず、驚いたような、でもとても優しい表情で、私をじっと見つめている。

「…何?」

マーク「いや、なんていうか…」
   「⚪︎⚪︎が素直でいい子なのは、大切に育てられたからなんだな、と思って」

「?」

(いきなり、どうしたんだろう?)

マークは運転手の方を向く。

マーク「リチャード、速度あげて」

リチャード「承知しました」

ハイヤーは相変わらず静かだけれど、窓からの景色の流れが速くなった。

「とにかくメール入れないとな…」

私は焦りながらパパあてに必死にメールを打つ。

(…パパ、絶対怒ってるよね)


_______________________


ハイヤーは角を曲がり、うちのアパートメントが立つ通りへ出た。
家の前の街灯の下に、一人の人影が見える。

「あ…パパ!」

落ち着かない様子でウロウロしているパパの姿が目に入り、
私は全身から汗が噴き出すのを感じる。
ハイヤーが近くに止まったことに気づいたパパは、いぶかしげにこちらへ視線を送った。

To be continued…..




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