2015年8月1日土曜日

第1話 Mとの共通点(後編)


第1話 Mとの共通点(後編)





「親切にありがとね。ここがうちの家」

マーク「へえ、お洒落だね。家族と?」

「パパと二人だよ。下の階に叔母が住んでて…って、話すと長くなっちゃうね」

マーク「ずっと聞いていたいところだけど、⚪︎⚪︎のパパが心配するといけないし」

そう言ってクスッと笑うと、マークは思い出してように、あっと口を開ける。

マーク「さっき言ってたエイダン・ライトのDVD、どうやって渡そうかな」
   「⚪︎⚪︎が家に居るときにでも持ってこようか?」

「それは悪いよ」

マーク「道、覚えちゃったからいいけど?」
   「工事をしてる道を脇に入って」
   「1フィートのマンホールの罠にはまってから、右に曲がればいいんだよね」

「マンホールは余計」

二人は顔を見合わせて笑う。

「マークの都合のいい時に、学校の近くで待ち合わせるとか」

マーク「オッケー!電話するね」

マークは軽く手を握り、去っていった。

(気さくでいい人だな…)
(セリーナに続いてマーク。素敵な友達ができて本当に良かった)

私は弾むように階段を駆け上り、アパートメントの中へ入った。


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廊下を歩きながら、ふとさっきの携帯の着信画面が脳裏をよぎる。

(キーラって…)

タクシーの中でマークが苦笑いを浮かべたあの映画女優の名と同じだという偶然に、はたと足を止める。

(…もしかして、女優と訳あり?)

マークの笑顔を曇らせた共通の名前、キーラ。
こんなセレブな街の住民なら、ありえない話じゃ…

「って、そんなわけないか!」

私はフッと笑って、部屋に向かい歩き出した。


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(少しだけ、クラスにも慣れてきたかな)

授業を終えて学校を出る生徒の波の中、私は門の前で足を止める。
DVDを借りるため、マークと待ち合わせをしているのだ。

??「⚪︎⚪︎!」

声をかけてきたのはセリーナ。

セリーナ「ハイ!」

「ハイ、セリーナ」

セリーナ「なんだか楽しそうね?誰かと待ち合わせ?」

「うん。マークとね」

セリーナは一瞬驚いたように目を見開いたかと思うと、ニンマリと口元を緩ませる。

「違うよ。そういうんじゃ」

セリーナ「まだ何も言ってないけど?」

「…そっか」

二人、笑いあう。

「セリーナは、その後どうなの?」

セリーナ「その後?」

「キス・オン・ザ・リップスに来る前、ダンとデートしたんでしょ?」

すると、セリーナは困ったような笑顔を見せる。

セリーナ「昨日、ダンに言われちゃった。キミとは住む世界が違うって」

「セリーナ…」

セリーナ「ダンだけは私のこと、わかってくれると思ったんだけどな」

セリーナは小さくため息をついて、パッと明るい顔を向ける。

セリーナ「じゃあね。マークによろしく」

「うん」

と、手を挙げたその時、私の携帯が音を鳴らす。
見ると、マークから。

「もしもしマーク?…え?」

セリーナが心配そうに足を止めた。

「…ここの近くなの?マークの家」

セリーナ「どうしたの?」

「マークの家って知ってる?」

セリーナ「御殿に招待された?」

「なんだかちょっと問題があって家に居るらしくって…」

セリーナ「はは〜ん」

(はは〜ん?)

私たちが話しているのが聞こえたのか、通話口からマークの声がする。

マーク「セリーナ、聞こえてるぞ」

セリーナ「どうすればいい?⚪︎⚪︎のこと、連れて行こうか?」

マーク「ああ、お願いしていい?」

セリーナがマークの家まで連れて行ってくれることになった。

セリーナ「すぐ近くだよ」
    「学校に来る途中、見かけたことない?ジョーンズ御殿」


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学校の近くの高級住宅地に、マークの家はあった。
セリーナにお礼を言って別れ、御殿と呼ぶにふさわしい豪邸を見上げる。

(マークのお家も、相当なお金持ちなんだな)

驚きながらぼーっと見上げていると。

マーク「どうしたの?口開けて」

二階の窓からマークがひょこっと顔を出した。

(はっ!)

マーク「待ってて、すぐ行くから」

エントランスの前に立つ厳めしい表情の守護さんと気まずい時間を過ごしていると、
ほどなくしてエントランスの重たそうな扉が開き、マークが笑顔で迎えてくれる。

マーク「ごめんね、わざわざ来てもらって」

「ううん、平気」

マーク「ジョン、この子は次から顔パスで」

守護「かしこまりました」

マークに案内され、私は豪邸に足を踏み入れた。


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(わあ、すごい…!)

中に入ると、ロビーにはまるでシアターギャラリーのように、
歴代映画女優の写真やオートグラフなどがセンス良く飾られている。

「なんかハリウッドに来たみたい」

マーク「親父は仕事もプライベートも映画一色だから」

「え、マークのお父さんって…」

マーク「あれ?言ってなかったっけ」
   「俺の親父、ジョーンズ・ピクチャーズの社長なんだ」

「!」

ジョーンズ・ピクチャーズといえば、知らない人はいない世界に名だたる映画会社だ。

マーク「さっきから⚪︎⚪︎、驚いてばかりだけど」

「いや、驚くよ普通」

マーク「そう?」

(マークの周りにいるリッチな人たちは、私みたいに驚かないのかな?)

「ごめんね、いちいちリアクションしちゃって」

マーク「ううん。面白いリアクション大歓迎」

「面白がってるよね」

マーク「さっき、ぽかーんと口開けてウチを見上げてた時の顔、可愛かったなー」

(そんな風に思ってたんだ…)

すこし照れくさくなってギャラリーに視線を移すと、マークの幼い頃と思われる写真を見つけた。
その隣に写る女性の美しさに、息を飲む。

「すごく綺麗な人…」

マークは後ろから同じ写真を覗き込んでいう。

マーク「俺もそう思うよ」

「この人って…」

マーク「俺の母さん」

「そうなんだ…女優さんみたい」

マーク「みたいっていうか。一応、元女優」

「やっぱり。なんていうか、雰囲気がある人だね」

マーク「ありがとう」
   「女優してた頃はスターというほどではなかったらしいけど」
   「俺が7歳の時に亡くなって…本当のスターになっちゃった」

そういって、マークは寂しそうに微笑んだ。


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マークの部屋に通されて、私は目を見開く。
広い空間にはオシャレな家具が置かれ、壁には150インチほどの大きなスクリーンがある。

マーク「そういえば、セリーナ昨日のこと言ってた?」

「昨日って?」

マーク「また一悶着あったから」

(さっきセリーナが言ってた、ダンのことかな)

「…ちょっと聞いたけど」

マーク「昨日はあの2人どころか、周りの俺たちを巻き込む大騒動なブランチ会だったけどね」

「ブランチ会…?」

マーク「チャックのお父さん主催のサタデーブランチ」
   「次は⚪︎⚪︎も誘われるかも」

「私は無理だよ。そぐわない感じ。それに、悶着も得意じゃないしね」

すると、マークはクスッと笑う。

マーク「俺も悶着好きってわけじゃないんだけど、慣れたのかな?」
   「まあ、アッパーイーストサイドじゃ、日曜の昼下がりによくあることだし」

(サタデーブランチか…私には縁遠い世界って感じだな)

そんなことを思いながら巨大スクリーンをぼーっと眺めていると、
マークがDVDを手にそばへ来た。

マーク「というわけで、おまちかねのDVD…」

と言ってDVDを差し出してから、思いついたようにスクリーンに目を移す。

マーク「…だけど、せっかくだから一緒に観て行く?」

「え?」

マーク「設備だけは充実してるから、エイダンの映画を楽しむには悪くない環境だと思うけど?」

(せっかくのアクション映画だし…うちの液晶TVじゃ、迫力は期待できないか)

「じゃあ…お言葉に甘えて」

マーク「オッケー。そこに座ってて。今、セットしてくるから」

促されたソファに掛けていると、DVDのセットを終えたマークが軽い足取りで戻ってきて、
当たり前のように私のすぐそばに座った。

マーク「よし、始まるぞー」

(…マーク、もう映画のことしか頭にないみたいだけど)
(ちょっと、近すぎるような…)

私は二人の距離感にドキドキしてしまう。
すると、ふとマークが私の方を見る。

マーク「もしかして、近い?」

「…うん」

マーク「だよね」

そういってニコッと笑うと、
マークはソファから少し離れたベッドサイドに腰を下ろし、映画を観はじめた。

To Be Continued…..





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