2015年8月1日土曜日

第9話 突然の告白(後編)


第9話 突然の告白(後編)



アパートメントの前で私を出迎えたのは、少し風変わりな男性だった。

(え、なに…穴の開くほど見られてるんだけど)

「⚪︎⚪︎です。今日はよろしく…」

男性「無理しちゃって」

「え?」

その男性は舐めるように私のドレスを見ると、ふんと鼻で笑う。

男性「カミツレにでもなったつもりか」

「なんですか?カミツレって」

男性「おまえ、日本人のくせして知らないのか?ポケモンを」

「あ、ポケモンなら」

男性「ポケモンならだと?!よく聞け、ピカチュウというのはだな…」

それから男性は、ピカチュウについて熱く語り始めた。

「あ、その…そろそろ出発しないと時間が」

男性「ふん、続きはリムジンの中だ」




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デビュタント舞踏会会場に到着。
日本オタクの男性、イーサンにエスコートされて会場に足を踏み入れると、
その見事な装飾に圧倒される。

「まさに社交界って感じ…」

眩いばかりの豪華シャンデリアに照らせれたホールで、着飾った男女が優雅にダンスを踊っている。

イーサン「…とまあ、簡単に言うとピカチュウとはそういうものだ」

ようやくピカチュウ講義が終わったらしい。
内心ホッとしていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返った私の胸がドクンと鳴る。

マーク「⚪︎⚪︎…来てたんだ?」

マークは知らない女性を連れている。
タキシードを凛々しく着こなす堂々としたその姿に、思わず見惚れてしまう。

「マークも…来てたんだね」

マーク「なんだか、久しぶりだよね」

「そうだね…」

マーク「舞踏会、楽しんでる?」

「…うん」

イーサン「…」

隣でイーサンが挙動不審な動きを見せる。

(どうしてマークと目を合わせないようにしてるんだろ…?)

わざとらしく天井のシャンデリアを見上げたり、
何度も腕時計を見たりしているイーサンを見て、マークは小さく言う。

マーク「お連れの男性に悪いから、もう行くね」

マークは優しく微笑み、連れの女性をエスコートして去っていった。
マークがいなくなった途端、イーサンは早口でまくしたてる。

イーサン「聞いてなかったぞ?あのマークと知り合いなのか?」
    「まったく『ヤマトナデシコ』という言葉はどこに行ったんだ?」
    「日本の女性が慎ましやかだなんて幻想に過ぎないと、たった今、証明されたな!」

「…」

イーサンは眉間にしわを寄せながらも私をエスコートして歩き回る。
すると、見知らぬ男性にエスコートされるセリーナの姿が目に入った。

(どうしてダンとじゃないんだろう?)

不思議に思っていると、近づいてきたセリーナが私にそっと耳打ちする。

セリーナ「お祖母ちゃんにダンのこと反対されて…結局、お祖母ちゃんが選んだ相手と来ることになったの」

そういうと、セリーナは困ったような笑みを浮かべ、男性と共に去っていく。

(セリーナも…か)

こんな煌びやかな空間に身を置きながら、セリーナも私もどこか気持ちが晴れないまま。





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エスコートされるまま、私はイーサンとダンスフロアに出る。
イーサンは日本オタクであるようだけど、どこかのお坊っちゃまなのだろう、ダンスはとても上手だった。

イーサン「まったく基本がなってないな、おまえは」

「ダンスはあまり得意じゃ…」

イーサン「ダンス以外に何ができるというのだ?」

「はいはい、何もできません」

イーサン「はいはいとは何だ?!」

イーサンといがみ合うように踊っていると、同じフロアで優雅に踊るマークを見つけた。
エスコートしていたご令嬢と手を取り合い、音楽に合わせた華麗なダンスを披露している。

(…なんだか見てるのが辛い)

イーサンに視線を戻すと、相変わらずの不機嫌顔。

(はぁ…)

イーサン「なんだ、その不満げな顔は?俺だって嫌なんだよ、下手なダンスに合わせるのは!」

するとその時、イーサンの肩に手が置かれた。
イーサンが顔をしかめ、その手の主を見上げる。

レオン「なら、代わってくれない?」

イーサン「ああ、どうぞどうぞ!こんな下手くそと踊りたがるなど、変な男だ」

吐き捨てるようにそう言って、イーサンは去っていく。
レオンはイーサンを見送ると、ふっと笑いを漏らす。

レオン「全然わかってないな、あの男は」

「え?」

レオン「君の魅力がわかってない」

「そんな…」

レオンんは冗談を言っているようにも見えず、私は自分の顔が赤くなるのを感じる。

(社交界では、こうして女性を褒めるのが礼儀…なの?)

「レオンの相手の女性は…?」

レオン「ニューヨークタイムズの取材を受けるとかで、別室へ行った」

そういうと、レオンは私の手を取る。

レオン「…踊らないのか?」

「うん…」

レオンのダンスはこれで二度目。
そのせいか、イーサンと踊るよりはるかに踊りやすい。

「レオンが来てくれてよかった。さっきの人と険悪なムードだったから」

そう言って笑うと、レオンも小さく微笑む。
と、その時、フロアの真ん中で何やら騒ぎが。

(え…ネイト?!)

ネイトがブレアの相手の男性に掴みかかっている。

ネイト「ブレアは俺の彼女だ!」

言うやいなやその男性を殴り、男性はその勢いでブレアの足元に倒れこんだ。

ブレア「…ネイト、何するのよ!」

ネイトは去っていき、会場は騒然となる。
もはや、社交界デビューどころではない物々しい雰囲気。

ブレア「やだちょっと!ドレスが敗れた!」

セリーナ「いいから、外へ行こ」

ブレア「よくないよ、これオートクチュールだよ!」

ブレアは心配して駆けつけたジェニーを睨みつけるようにして言う。

ブレア「ジェニー…このドレス直したら全部許してあげる」

ジェニー「…」

(ゆるすって…もしかして)
(あのネイトのゴシップ相手、ジェニーだって気づいてたの?)

セリーナに支えられるようにしてブレアは会場を出て行き、その後をジェニーが追う。

レオン「ちょっとここにいて」

レオンは私を心配そうに見下ろすと、その場を離れた。
すると、チャックが取り澄ましたようにフロアの中央に歩み出る。

チャック「みなさん静粛に。紳士淑女の集まるこのデビュタント舞踏会で珍しい一幕をお目に掛けましたが…」
    「余興はここで終わりです。気を取り直して、楽しみましょう」

(なんだか、チャック楽しそう…)
(…ブレアのことは、どうなったんだろう?)

何が何だかわからず、頭は混乱するばかり。
ふとマークの方を見ると、複数の女性に囲まれていた。

(相変わらず…だな)

と、次の瞬間、マークと目があう。

マーク「…」

マークは私を見つめながらこっちへ向かってこようとするも、周りの女性に引き止められている様子。

(無理しなくていいのに…)

私はマークから視線をそらし、バルコニーへ向かう。




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波乱含みの社交界デビューから逃れ、私はバルコニーへ出た。

(いろんなことがありすぎて…もう、疲れちゃったな)

風にあたりながらぼんやりしていると、バルコニーのドアが開き、誰かが近づく。
少し振り返ってみると、レオンだった。

レオン「あそこにいてって言ったのに」

そういって、レオンは困ったように微笑む。

「ごめん。なんだか外の空気、吸いたくて」

レオン「確かに…あそこは居づらい」

二人、喧騒から離れ、バルコニーで静かに外を眺める。

「もう、風がすっかり冬だね」

レオン「ああ」

ふと視線を感じ、隣を見る。

「ん?」

レオン「いや…さっきとうって変わって、いい表情してるな」

「うん。ボーッとして、頭の中真っ白にするのが好きなんだよね」
「そこにいると、なんだかいろいろ忙しいから」

そういって会場の方をちらりと見ると、バルコニーのガラスの向こうに、
マークが女性と楽しそうに会話する姿が見えた。
女性が甘えるようにマークの胸元に手を置くも、マークは気にすることもなく笑顔で話を続けている。

(ああいうのが、普通にできちゃう人なんだよね…)

すると、レオンがボソッと言う。

レオン「俺だったら…そんな顔させない」

「…え?」

レオン「自分でも意外だよ…」
   「こんな風に人を好きになるとか」

レオンは冷やかな瞳を揺らし、まっすぐに私を見つめる。

(これって…もしかして告白?)

驚きのあまり言葉の出ない私に、レオンは小さく微笑む。

レオン「答えが欲しくて伝えたわけじゃないから…」

そういうと、レオンはその場を去っていった。




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女性「もう、マークったらさっきから外ばかり見て、どうしたの?」

マーク「いや…ちょっとスパイダーマンが見えた気がして」

女性「そんなことばっかり」

マーク「外の空気吸ってきていい?」

女性「仕方ないわね。すぐ戻ってきてよ」

ようやく取り巻きから解放されたマークは、⚪︎⚪︎を追うようにバルコニーのドアへ向かう。
と、その硝子戸から見えた光景に、足を止めた。

マーク「…」

バルコニーの手すりに片手をかけ、⚪︎⚪︎を見下ろすように何か話しているレオン。
その瞳を見上げる⚪︎⚪︎の表情も真剣だ。
二人の間に漂う空気に、マークは息を飲む。

マーク「…先、越された」

小さく呟くと、マークは静かに踵を返す。
襲いくる後悔の中、バルコニーを背に、虚構に満ちた階級社会の踊りを眺める。
⚪︎⚪︎を今すぐ取り戻したい焦りを感じながらも、澄み切った世界にいる⚪︎⚪︎を
この濁った世界に引きずり込んでいいものか、答えが見つからないでいた。


To Be Continued…..




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