2015年8月1日土曜日

第7話 ダンスの相手(後編)


第7話 ダンスの相手(後編)




マークがハッとしたように、私の手を離す。

マーク「なんだ…レオンと来てたんだ!」
   「アハハ…ごめんごめん!」

「え…マーク…」

マークは私たちを振り返ることなく去っていき、踊る人の波の中に消えた。

(…凄くあっさりと行っちゃった)
(やっぱり、私なんて相手にされてないんだ…)

レオン「マークに悪いことしたかな」

「…他にも踊る相手、いるんだと思うよ」

レオンが申し訳なさそうに、両手に傘のついたドリンクを持っていることに気づき、
私はその一つを手に取る。

「ありがとう」

レオン「ううん…」




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マークは当て所なく、フロアをただ一人、歩いていた。

女性客「ハイ、ひょっとしてマーク?」

女性客「ほんとだ、マーク見っけ」

マーク「…」

女性客「?」

自分に声をかけてくる仮面の女たちに言葉を返すことなく、マークは通り過ぎる。

女性客「似てるけど、違う人だったみたい」

女性客「残念。仮面被ってるからわかりづらいよ」

女たちの声を背に受けながらも、マークは柱の角を曲がり、壁にもたれかかった。

マーク「仮面舞踏会の仮面って、こういう時のためにあるのか…」

小さくつぶやきながら、そっと後ろを振り返ってみる。
すると、踊るレオンと⚪︎⚪︎の姿が目に入った。

マーク「…」

レオンは⚪︎⚪︎に微笑みかけるように見下ろし、踊っている。

マーク「あいつが踊るなんて、珍しいな…」

二人のダンスから目を背けるように体を戻すと、マークは大きく息をついた。




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ダンスを終えると、私は周囲に習って恭しくお辞儀をする。

レオン「上出来」

「そう?よかった」

(マーク、あのままどこに行っちゃったんだろう…)

結局戻ってくることのなかったマークを思い、私はレオンに笑顔を向けながらも、内心沈んでいた。
時計を見ると、もう帰る時間。

「そろそろ私…」

レオン「帰るんなら、俺、送ってくよ」

「あ、でも」

レオン「俺ももう帰ろうと思ってたし。うちの運転手もそろそろ解放してやらないと」

「え?ハイヤー待たせてるの?」

レオン「ああ、店の近くにいる。少し前からね」

レオンはこともなげにそう言った。

(ありがたいけど…なんだか今は、一人になりたい気分だな)

「ごめん、今日は一人でタクシーで帰りたい…」

レオン「…そっか」

レオンは小さく笑って軽く手を挙げる。

レオン「じゃ、気をつけて」

「今日はありがとう。レオンに踊り教えてもらったから、今度マークに自慢してみる」

レオン「ああ。またな」

レオンと別れ、出口に向かって歩いていると、突然後ろから誰かに腕を掴まれる。

(えっ…ひょっとして)

ネイト「⚪︎⚪︎、セリーナを見なかった?!」

心のどこかでマークと期待して振り返ったけど、そこにいたのは必死の形相をしたネイトだった。

「ネイト、まだブレアを見つけられてなかったの?もうすぐ0時だよ?!」

ネイト「いや…」

「じゃあ、セリーナの衣装を言うね。黄色いドレスに黒い…」

ネイト「毛皮のボレロ。それは知ってる」

「え?」

ネイト「セリーナは一度見つけた…」

「どういうこと?」

ネイト「見つけた…つもりだったんだ。でも別人だったんだ」

「…え?」

わけがわからず固まっていると、ネイトはハッと我に返ったように表情を緩める。

ネイト「ごめん、もう帰るとこだった?引き留めちゃったね。気をつけて」

「え、ネイト…?」

ネイトは急ぎ足で行ってしまう。

(どうしたんだろう…)




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会場を出ると、道路は仮面をつけたまま酔っ払っている客や、
仮面を取って笑顔で笑いあう若者などで溢れかえっている。
私はその人垣の間を抜け、タクシーを拾おうと手を挙げた。


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走り出したタクシーからふと外に目をやる。

(あ…)

溢れる人の中で、キスをするセリーナとダンを発見。

(…仲直りできたみたい。良かった)

ホッとしてから、ふと、セリーナがさっきの衣装を身につけていないことに気づく。

(ネイトが言ってた別人って、ひょっとしてセリーナから衣装を借りたのかな)

考えても解けそうにない謎なので、私は考えないことにした。

ドライバー「仮面舞踏会、行かれてたんですか?」

ドライバーがバックミラー越しに話しかけてくる。

「そうなんです」

ドライバー「正体を隠すから、楽しいんでしょうね」

「え?」

ドライバー「だってほら、別人になれるでしょう?」
     「普段の自分から解き放たれるっていうのかな」
     「何を考えてるかを見抜かれることもないし、そういうとこが気楽なんですかねえ」

「そうかもしれませんね…」

(…マークの考えてることは、仮面がなくても考えづらいけど)

少ししか触れ合うことのできなかった舞踏会の空腹を埋めるように、
帰りのタクシーの中、私はマークのことばかり考えていた。


To Be Continued…..


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