2015年8月1日土曜日

第3話 きらびやかな夜(前編)


第3話 きらびやかな夜(前編)



マーク主催のクラブイベントの日がやってきた。
クラブの前に続々と集まる着飾った男女たち。

(セリーナ、早く来ないかな…)

気後れしながら入り口で待っていると、聞き覚えのある声が私に向かって飛んでくる。

??「これはこれは、ジョーンズ夫人」

(え?)

声の方を見ると、チャックとネイトが大人びたスーツに身を包んで立っている。

チャック「ご機嫌、麗しゅう」

「ちょっと、ジョーンズ夫人って」

ネイト「チャック、⚪︎⚪︎が嫌がってるだろ?」

ネイト「やあ、⚪︎⚪︎」

「ハイ、ネイト」

チャック「未来の夫が仕切るイベントだぞ?こんなところで突っ立ってていいのか?」

「半分の顔が私だったからそんなこと言ってるんしょうけど、あれ、誤報だから」

チャック「誤報かどうかは受け手が判断する。それが『ゴシップガール』だ」

そういってシニカルに笑うと、じっと私の目を覗き込む。

(な、なに、ほんとにチャックって失礼よね)

チャック「ふん、お前に目の奥の動揺が、すべて物語ってるな」

「チャックが急に近づくからびっくりしただけ」

チャック「カマトトぶりやがって」

「…!」

ネイト「もう、それくらいにしよう、二人とも」

ネイトが私たちの間に体を入れるようにして手を広げる。

ネイト「ところで、ここで誰かを待ってるの?」

「うん、セリーナと待ち合わせてて」

そう言った瞬間、ネイトの顔色が変わったような気がした。

ネイト「…セリーナ、来るんだ」

チャックがちらりと横目でネイト見る。

(やっぱりネイトとセリーナって、何か訳ありっぽいな)

ネイト「じゃあ、⚪︎⚪︎、あとで」

「うん」

お店に入っていく二人を見送ったところで、携帯がメールを着信。
セリーナからだ。

セリーナ『ごめん、⚪︎⚪︎!今日行けなくなっちゃったの。私の分も楽しんできて』

「え…うそぉ」

(セリーナが来ないんなら…帰ろうかな)

派手な出で立ちの客が次々とお店に吸い込まれていくのを眺めながら、小さく息を吐つく。

(やっぱり私には場違いな感じだし…)
(よし、今日はパパに何か手料理でもつくってあげるとしよう)

そんなことを思い、道を引き返し始めたその時、

??「どこへ行くの?」

その声に振り返ると、ブレアが取り巻きの女の子たちを従え、こちらを見据えている。

ブレア「始まるよ、イベント」

「あの、実は」

言いかけた私の腕に、ブレアはすっと腕を滑り込ませる。
そして強引に向かって歩き出した。

「え、ちょっと」

ブレア「まさか、帰ろうとしてたわけじゃないわよね?」

「いや、そのまさ…」

ブレア「土曜の夜にブラックライトを浴びないで、いつ浴びるの?」

「…別に浴びる必要ないと思うけど」

ブレア「あなたって、意外と面白い人ね」

「だって、ブラックライトって…」

言い返そうとした私の顔の前に、ブレアは携帯の画面を差し出した。
それは、『ゴシップガール』の例の記事。

「…あ、これはね」

ブレア「こんな残念な写り方するなんて、やっぱり面白い人」

ブレアは写真を見ながらクスッと笑う。

ブレア「でも、家族に会わせるなんて、⚪︎⚪︎もなかなかのやり手ね」

「そういうんじゃなくて…」

ブレア「これで、ようやくこっちサイドに入れるわ」

(こっちサイド?ブレアの親衛隊に入れってこと?)

ブレア「でも、マークは無理よ」

「…え?」

ブレア「家族に会わせたくらいで、マークを自分のものにできるとでも思った?」

ブレアは呆れたように笑いながら、私の手を引いてクラブへ入っていく。

(無理って…どういうこと?)

ブレアがいうような野心は微塵も持ってなかったけれど、何故か心がモヤモヤした。
店の中へ入るとフロアは超満員で、イベントはすでに盛り上がりを見せている。
ブレアはすでに知り合いを見つけて、ハグをした後どこかへ行ってしまった。

「はぁ…」

ため息をついていると、背後で盛り上がる人たちの動きに押し流される。

(わっ)

上背のある客の波にのまれ、右も左も分からない。
大音量で流れる音楽に体を揺らす若い男女、お酒を片手に微笑むセクシーな大人たち。
いろんな人の熱気が充満するその空間で、私はただ一人、腰がひけていた。

(やっぱり、帰ろうかな)
(出口まで出るのに苦労しそうだけど…)

そう思った瞬間、

(…え?!)

人ごみの中、誰かに手を握られる。
おそるおそる顔を上げると、そこにはマークの優しい笑顔。

(マーク…)

張り詰めていた緊張の糸が、ふっとほぐれた。

マーク「良かった、来てくれて。こっち」

マークは私の手を引いて、人の間をすり抜け進んでいく。

(こんな人混みで、よく私のこと見つけられたな…)

「ねえ、マーク」

マーク「ん?」

「よく見つけられたね」

マーク「え?」

音楽のボリュームが大きくて、声が聞こえなかったらしい。
マークは少し足を止めて、私の顔の近くに耳を寄せた。

「よく見つけたね。こんな人混みの中」

今度は聞こえたのか、マークはうんうんと頷いてから、何か言葉を返す。

「え?」

次は私が聞き取れない。
すると、マークは私の耳元に顔を近づける。
その距離の近さに、思わずドキッとしてしまう。

マーク「すぐに目に入ったよ」

そういってマークは、いつもと変わらないフランクな笑顔を向ける。

(ドキドキしてるのは、音楽の振動のせいだよね…)

私はマークに手を引かれ、スピーカーから離れた場所へたどり着いた。

マーク「ここならさっきより話しやすいかも」

「うん」

ちょうど二人が立っている場所は、一段フロアから高くなっているのもあって、
私はそこでようやく全体を見渡すことができた。
広い店内には大小さまざまなスクリーンがあり、それぞれに趣の異なる映像が映し出されている。

「わあ、お洒落だね…!」

目の前に開けた視野に、思わずそう漏らした。

マーク「ありがと」

マークは嬉しそうに目を細めて私を見る。

(あ、そうか。マークが主演だからかな)

「これだけの映像を集めるの、大変だったんじゃない?」

マーク「ああ、これ?」

「スクリーンいくつある?」

マーク「38だよ」

「えー、凄い。だって、それぞれ、宇宙っぽいのだったり、自然だったり…」
「あ、これってバスケの試合…?」

マーク「そう思うでしょ?でもよく見ると…」

「あ、料理が始まった!」

バスケットボールがゴールにシュートされた瞬間、
ゴールポストから落ちてきたボールは割られた卵に変化し、フライパンの上に落とされるという映像だった。

「こういうのって、どこから集めてくるの?こういう映像好き!」

マーク「集めたっていうか…作ったんだけどね」

「え?」

マーク「ここで流してる映像、俺が作ったの」

マークはちょっと照れたように肩をすくめる。

「マークの作品だったんだ…」

あらためて、それらの映像を見る。

(マークって、ただ者じゃないって感じ)

ほとばしるようなその才能に、私は胸を打たれた。

「ずっと観ていたいよ。全部」

マーク「良かった。⚪︎⚪︎にはどうしても見せたかったんだよね」

「…私に?」

マークは映像を見ながら、柔らかく微笑む。

マーク「俺が好きな世界、きっとわかってくれると思ったから」

「…」

(なんだか、嬉しいような、こそばゆいような…不思議な感じ)

マークのストレートな言葉に、心では喜んでいるのにうまく返す言葉が見つからない。

「マークの作品、もっと観たいな」

マーク「ほんと?いくらでもあるよ。よかったら、今度ぜひ」

「うん、是非!ねえ、こういう作品ってどう作ってるの?」

するとマークは、生き生きとした顔をして、細かく説明してくれる。
エッジの効いた現代的な映像に、
あえてフィルムを取ったようなスクラッチノイズをあててみたりといった、
遊び心にある作品が好きなんだそう。

マーク「って、こんなオタクっぽい話、楽しそうに聞いてくれるのは⚪︎⚪︎くらいだよ」

「そうなの?もっと聞きたいよ」

マーク「ならよかった」

マークは嬉しそうに笑った。
そこで、マークに親しそうに近づく男性。

友人「ハイ、マーク!」

マーク「やあ、ベン!楽しんでる?」

ベン「久々に羽を伸ばしてるところさ」

マーク「⚪︎⚪︎、紹介するよ。彼はベン。父さんの優秀な右腕」

ベン「それは買いかぶりすぎだけど。マーク、向こうに会社のやつらも来てるんだ。一緒に飲まないか?」

マーク「ああ、あとでね」

マークと二人で話していると、いろんな人がマークに声をかけてくる。

マーク「⚪︎⚪︎、さっきの話の続きだけどさ…」

友人「マーク!今回もクールなイベントだね」

マーク「ハイ、ローラ」

年上っぽいその女性はマークの腕をそっとつかむ。

ローラ「あっちで飲んでるんだけど、来ない?」

マーク「ああ、あとでね」

女性は残念そうに去っていく。

(人気者のマークが私にかかりきりになってる感じ…?)

「マーク、私なら大丈夫だよ。友達のとこ行ってきて」

するとマークは、疑うように冗談っぽく眉をひそめる。

マーク「ほんとに〜?」

「ほ、ほんとだよ」

マーク「いや、俺が⚪︎⚪︎といたいから」

「はいはい、わかったから、行っていいよ」

マーク「なんか可愛げなくない?」

「可愛くないからしょうがないでしょ」

マーク「口が減らないなー」

「生まれつきなの」

マーク「じゃあその減らず口で、さっきの続き、話さない?」

「いいけど」

マーク「…けど?」

「いいよ」

マーク「いいけど、いいのね。よし、じゃあ、あそこで飲もう」

マークはさりげなく私の手を引いて、カウンターの席へ連れて行く。



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