2015年8月1日土曜日

第5話 真夜中のヒーロー(後編)


第5話 真夜中のヒーロー(後編)



ブレアに強引に連れてこられたのは、マンハッタンにある人気のクラブ。
金曜の夜ということもあって、若者だけでなくビジネスマンたちも盛り上がっている様子。

「これもお泊まり会のコースの一部?」

ブレア「そうよ。まだアペリティフってとこかしら」

(こっちはマティーニでクラクラしてるっていうのに)

「そういえば、ジェニーはどこに行ったの?」

ブレア「エリックからジェニーにSOSメールが来たから、私がジェニーに挑戦の指令をしたの」

「SOSメール?」

セリーナの弟エリックは、この今週、入院しているオストロフ・センターを
一時退院する予定だったけど、ママに却下されたらしい。
それでジェニーにメールで泣きついたというのだ。

「ってことは、挑戦って、もしかして…」

ブレア「そう。救出よ」

ブレアはこともなげにそう言った。

ブレア「だって私、エリックには借りがあるでしょ」
   「アイビー・ウィークの親睦会で、何も知らずにあんなこと言っちゃったから」

「…気にしてたんだ」

ブレア「一応ね」

(なんだかブレアの意外な一面が見られた感じ)

その時、私はのちに、ブレアのさらなる意外な一面を見せつけられるとは知らずにいた。
しばらくして、クラブの雰囲気にはそぐわない、可愛い男女が登場。

ジェニー「ブレア、挑戦成功よ!」

救出したエリックを連れたジェニーがクラブに現れ、今度はジェニーが質問をする立場になった。

ジェニー「ブレア、真実か挑戦、どっちにする?」

ブレア「いいわよ、指令を言ってみて」

ジェニー「じゃあ…」

ジェニーは腕組みをしてフロアを見渡すと、BOX席にいるビジネスマンに目を止める。

ジェニー「あの中の誰かを誘惑して!」

ブレア「…オッケー。見てて?」

ジェニー「えっ…」

ジェニーはブレアが挑戦を選ぶとは思っていなかったようで、
驚きと好奇心の入り混じった表情でブレアの背中を見送る。

(ブレア…ほんとに誘惑するつもり?)

オストロフ・センターから抜け出したエリックも、息を飲むようにして見守っている。

そして…

ブレアはあっけなく挑戦を成功させた。
BOX席からビジネスマンを連れ出すと、いきなりその場で熱いキスを始めたのだ。

「ブレア…」

ジェニー「15歳には刺激が強すぎるよ」

そう言ってジェニーはエリックの目を塞ぐ。

「って、ジェニーは14歳でしょ!」

ジェニー「うふふ」

ビジネスマンたちのアイドルと化したブレアは、こっちの席へ戻ってくると、楽しそうに手招きをする。

ブレア「あの人たちはすっごく楽しいから一緒に飲も」

「え、でも…」

ブレア「⚪︎⚪︎のそういう可愛い子ぶるとこ、ほんとにキライ!」

「キライでもいいから行かない」

ブレア「マークにフラれたからって意固地になってるんでしょ」

「ふ、フラれてなんかないっ…ていうか、それ以前にただの友達だから!」

ブレア「いうこと聞かないと、質問するよ?私、挑戦成功者なんだからね」

そういって、無理やり、私の手を引いていく。

(なんなのよ…まったく)

BOX席がティーンの女子で一気に華やぐと、
ビジネスマンたちはブレアを始めとする女の子に鼻の下を伸ばす。

(いい年して…私たちが高校生だって知ってるのかな)

私が一人、一線を引いていると、ブレアが不満げにこちらを見やり、私の隣のビジネスマンに話しかける。

ブレア「ねえ、お隣の子が寂しがってるわよ」

男「え?そうなの?ごめんごめん」

「いえ、大丈夫です」

ブレア「⚪︎⚪︎、照れなくていいのよ?さっき言ってたじゃない、あのメガネの人カッコいいねって」

隣の男のメガネが光る。

男「そういうことなら早く言ってよ」

「ちょっとブレア、そんなこと私言ってないし」

ブレア「⚪︎⚪︎、一人だけつまんなそうにしてたら周りの迷惑になるでしょ」

男「まあまあ、喧嘩しないで二人とも」

そういうと、メガネの男は私の隣にピッタリと体を寄せる。

(え…)

男「可愛いね、キミ。10代かってくらい肌がきれいだし」

「高校生ですから」

男「あははは…それ面白い。ね、さっきの子みたいに、俺たちもキスしようか」

「は?」

男「いいからいいから」

「ちょ、ちょっと…」

迫ってくるメガネを振り払おうとしたその時、

マーク「はい、ストーップ!」

(…え?)

当然、背後に現れたマークは、後ろから腕を入れて私から男を引き離す。

男「なんだお前…邪魔すんな」

マーク「邪魔はどっちかな?」

男「はあ?こっちは二人、いい気分で盛り上がってるんだよ!ガキはあっち行け!」

すると、穏やかだったマークの顔がこわばる。

マーク「この子を君らみたいな汚い人間と一緒にしないでくれるかな?」

(マーク…)

口調こそ冷静さを保ってはいるものの、その目は怒りをこらえるような静かな迫力に満ちていた。

マーク「⚪︎⚪︎…こっちおいで」

そう促され席から立とうとすると、メガネの男が私の手首を掴む。

男「ちょっと、どういうことだよ」

マーク「だからこの子に触るなって」

マークは男の手を掴んで私から離した。
その隙に、私は逃げるようにマークのそばへ移動する。

するとその時、

??「切符を拝見」

マークと一緒にいる友達が、ビジネスマンが女の子に差し出していた名刺をスッと取り上げた。

マーク「レオン、どこのヘッジフォンド・マフィアだ?」

レオンと呼ばれたマークの友達は、名刺を見てフッと笑う。

レオン「いや、もっと面白い。⚪︎⚪︎貿易…アイザックの親父の会社だ」

その言葉に、ビジネスマンたちの顔色が一変する。

マーク「へえ、世間って狭いね。君らの会社の社長の息子、俺たちの親友だよ」

レオン「会員分の名刺をもらっておこうか?社外でも積極的に商談を展開する優秀な社員として報告しといてやるから」
   「ただし、相手が高校生だから、どういう査定になるか…」

男性「こ、高校生だって?!」

ジェニー「私は14だよ?」

男性「…マジかよ」

ビジネスマンたちは苦虫を噛み潰したような顔で退散していった。



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飲み直すというブレアたちと別れ、私はマークとタクシーに乗り込んだ。
マークはさっきのことには触れず、レオンと1 on 1でバスケをしたことなど、楽しげに話している。

「あの…マーク」

マーク「ん?」

「助けてくれて、ありがと」

マークはフッと笑って私の頭をポンポンと撫でる。

マーク「いいのいいの」

学校の中庭でのマークの言葉が蘇る。


マーク『お泊まり会はやめて、俺とデートしてくれない?』


(こういうことがあるから、ブレアの誘いを断らせようとしてくれたんだ…)

さりげなく気遣ってくれていたことに、今頃になって気づく。

マーク「そうそう、それでね、レオンとやってた1 on 1で俺が負けちゃって」
   「モンローのノーマ・ジーン時代のオートグラフを譲る羽目になったんだよね」

「えっ…今さらっと言ったけど、それってスゴくない?」

マークはコクリと頷く。

マーク「ちょっとやそっとのモノじゃゲームを楽しめないってレオンが言うからさ」
   「はぁ…モンローじゃなくてヘップバーンにしておけばよかった」

「どっちもスゴイと思うけど…。そういえば、レオンって人、クラブに置いてきちゃってよかったの?」

マーク「ああ…彼は自由人だから、もう帰ってくると思うよ?」
   「それか、ブレア軍団に押され気味のエリックの相手をしてるんじゃないかな」

「そっか…ならいいけど」

マーク「あれ?ひょっとして、レオンのこと気になってるとか?」

「なに、気になってるって」

マーク「あいつ、いつの間に⚪︎⚪︎に色気使ってたんだー?まったく隅に置けないなあ」

「いや、私、そんなすぐに好きになったりしないから!」

マーク「…だよね」
マークはどこか意味深に微笑んだ。


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帰宅すると、パパが驚いたように読んでいた本から顔をあげる。

パパ「⚪︎⚪︎…友達の家に泊まるんじゃなかったのか?」

「うん…ちょっとね」

パパ「何?喧嘩でもしたか」

「ううん、その逆」

パパ「…?」


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不思議顔のパパを目尻に、自室へ入った。

(マークとのわだかまりが無くなった感じで、よかった)

ベッドに寝転がり、足を投げ出す。

「最高級のキャスター付ベッドより…やっぱりこっちのがいいや」

ボーッと天井を見つめ、自然と目に浮かぶのは、クラブでのマークの姿。

(あんな風に怒ることもあるんだ…)

これまでに見せたことのない一面に、驚きと同時に少し、嬉しくも感じた。


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翌月曜日の放課後。
アメリカの本でも読もうと思った私は、図書館へ向かった。

(もっと国の文化を勉強したほうがいいよね…にしても、たくさんあるなー)

広い館内を練り歩いていると、新刊雑誌のコーナーにたどり着く。
スポーツ、サイエンス、アートなど、多岐に渡る雑誌の表紙を眺めていた私は、ハッと息を飲む。

(…これって)

思わず手に取った雑誌の表紙で微笑むその人は、マーク。
その雑誌は、インディペンデントを含む映画の最新情報を伝える有名月刊誌だ。

『次世代を担う若きホープ、マーク・ジョーンズの才能に迫る』

そう題された見出しとともに、マークの特集記事が組まれている。

(スゴイ人だとは思ってたけど…こんな雲の上の存在だったとは…)



To Be Continued….



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