2015年8月1日土曜日

SS 左手薬指のリング


SS 左手薬指のリング


買い物を終えて店を出ようとしたとき、ブロンドの女の子とすれ違った。
私はふとセリーナのことを思い出す。
セリーナは同じ学校のはずなのだけど、まだ校内で会っていない。
ここから彼女が住むパレスホテルまではそう遠くない。


(いるかどうかわからないけど、会いに行ってみよう)





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ホテルのコンシェルジュに尋ねると『セリーナは外出中』との返事が返ってくる。


コンシェルジュ「お待ちになりますか?」


「すぐに戻ってくるのかな?」


コンシェルジュ「さあ?半年戻られなかったこともありますが…」


「半年?!」


驚いて聞き返しても、コンシェルジュは生真面目な顔を崩さない。
どうやら冗談ではないみたいだ。


(買い物で疲れたし、お茶でもしながら少しだけ待ってみようかな)


私はロビーが見渡せるコーヒーショップに向かった。





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アールグレイをオーダーしてから、店内を見渡していると、奥の席に座っている女の人に目が止まる。
20代半ばぐらいのセクシーな美人で、胸元には遠くから見てもわかるような
大きなダイアモンドのネックレスが光っている。
彼女の前に座っているのは若い男の人。


(えっ?!)


それはアイザックだった。
一瞬、彼がこちらを見た気がして、私は慌てて他のお客さんの陰に隠れる。
どうやら気づかれなかったみたいだ。


(そういえば、前もこのホテルで彼と会ったんだっけ…)





アイザック「立ち聞きとは悪趣味だな」



(どうしよう、見つかる前に出ようかな…)


迷っているところに、タイミング悪くウエイターがやってくる。


ウエイター「お待たせしました。アールグレイティーです」


「あ、ありがとう…」


ウエイターはカップにお茶をカップに注ぐと、にっこり笑って去って行った。
仕方ない…とお茶を飲み始めたものの、つい気になって、
アイザックたちの方をちらちら見てしまう。
彼女の方はにこやかにアイザックにあれこれ話しかけている。
アイザックの方はいつ通りクールな表情だけど、
2人の間には親密な雰囲気が漂っているように見える。


(アイザックの彼女なのかな…?年上だよね)


彼女の方がバッグを手に取り、中から何かを出してアイザックの前に置く。
それは表に何か書かれた細長い紙切れ。


(小切手?)


アイザックはその紙切れをろくに見ないで、すぐ自分のポケットにしまった。
二言三言、言葉を交わし、2人は席から立ち上がる。
アイザックはこちらには気づかず、そのまま彼女をエスコートして席を出て行った。


(ホテルで会って、小切手渡すって…一体どういう関係?)


なんだか見てはいけないものを見てしまった気がする。
私は冷めてしまったアールグレイティーを飲み干して、席を立った。





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(セリーナ、帰って来てるかな?)


もう一度聞いてみようと、コンシェルジュのところへ歩いて行くと、
ふらりと前に人が立ちはだかる。


「あ…」


アイザック「立ち聞きの次は、のぞきか」


やっぱりコーヒーショップにいたのを気づかれていたらしい。


アイザック「ほんと、悪趣味な女だな」


「は?そんな人聞きの悪い事言わないでよ!別にわざとじゃないし」
「たまたまお茶をしに入ったら、あなたがいただけで…」


アイザック「ふーん」


「だいたい、人に見られて困るようなことしてる方が悪いんだし」


アイザック「見られて困るようなこと?」


「あ…」


(まずいこと、言っちゃった…)


アイザック「何が言いたいんだ?」


アイザックがじろりと私の顔を見る。


「いや、あの…」


??の声「アイザック?」


現れたのは、さっきアイザックと一緒だった年上の美女。


年上美女「まだ帰ってなかったのね、よかった」


彼女はちらりと私の方を見る。


年上美女「どなたかしら?もしかしてアイザックの彼女?」


「は?いや、ち、違います、私…」


アイザック「冗談はやめてくれ」


アイザックが吐き捨てるように言う。


年上美女「あら、だってかわいいお嬢さんじゃない?」
そう言って、彼女は私に微笑みかける。
つい見とれてしまうような色っぽい表情だ。


アイザック「俺はガキには興味が無い」


年上美女「あら、そうなの?」


(ガキって…)


ちょっとむっとしたけれど、言い返す言葉はない。


(そりゃ、こんな人と付き合ってたら、私なんてガキにしかみえないよね…)


「私、失礼します…」


そう言って2人から離れようとしたとき、セリーナがエントランスに入ってくるのが見えた。


「○○!」


セリーナもすぐ私に気づいて、こちらに駆け寄ってくる。


セリーナ「会いに来てくれたんだ。うれしい!」


「うん。近くで買い物してたから」


セリーナ「ハイ、アイザック」


アイザック「おう」


セリーナはアイザックの隣の美女の顔を見て、少し考えるそぶりをする。


セリーナ「えっと…」
    「あ!サマンサよね?確か、アイザックの…」


サマンサ「覚えててくれたんだ。前に会ったのはかなり前よね」


セリーナ「ええ、私、しばらくニューヨークを離れてたの」


どうやら2人も顔見知りらしい。


サマンサ「じゃあ、報告はまだね?」


セリーナ「報告?」


サマンサはセリーナに左手を見せる。
薬指にはリングが光っている。


セリーナ「結婚したのね!おめでとう」


サマンサ「ありがとう」


サマンサはセリーナにお礼を言ってから、隣のアイザックに微笑みかける。


「え?結婚してるんですか、2人?」


私は驚いて、アイザックとサマンサの顔を見る。


(高校生が年上の女性と結婚…これも、アッパーイーストじゃ普通のことなの?)


セリーナ「○○…」


セリーナがなんだか複雑な顔で私を見る。


サマンサ「…やだ」


サマンサがふっと吹き出す。

「え?何?」


アイザック「おまえ、何勘違いしてるんだ」


「は?」


アイザック「サマンサは俺の親父の結婚相手だ」


「えっ?お父さんの?」


サマンサとセリーナがこらえきれないと言うように笑い出す。
自分の顔に血が上って、赤くなっていくのが分かる。


「す、すみません。私…」


サマンサ「いいの、いいの」


サマンサが笑いながら答える。


サマンサ「それよりアイザック、『おやじの結婚相手』なんてずいぶん他人行儀な言い方ね」
    「私はあなたのお母さんなんだけど」


アイザックはふっと鼻で笑う。


アイザック「無理すんなよ」


サマンサ「え?」


アイザック「俺に媚び売ってるヒマがあったら、親父に飽きられないようにせいぜい努力した方がいい」
     「あんたの代わりの女なんて、親父のまわりにいくらでもいるんだから」


サマンサの顔がさっと青ざめる。


セリーナ「ちょっとアイザック!」


サマンサ「いいのよ、セリーナ」


セリーナを遮り、サマンサはアイザックの方に向き直る。


サマンサ「私のこと、母親扱いしないんなら、さっき渡した小切手返してくれる」


アイザック「は?」


アイザックは驚いたようにサマンサを見る。


サマンサ「『息子の生活費を管理するのは母親の仕事だ』」
    「って。あなたのお父さんから私が頼まれたんだから」


アイザック「ちょっと待てよ、おい…」


しばらくにらみ合って、サマンサがふっと吹き出す。


サマンサ「冗談よ」


アイザック「は?」


サマンサ「あ、でも、本当にさっきの小切手は返して」


そう言って、サマンサはバッグから別の小切手を取り出す。


サマンサ「間違って、額面が違うものをあなたに渡したの」
    「ちなみにこっちの方が500ドル高いわよ」


露骨に金額の話をするサマンサに、アイザックは不快そうに顔をしかめる。


サマンサ「さ、どうぞ」


アイザックはむっとした顔のまま、ポケットから小切手を取り出し、サマンサの物と交換する。


サマンサ「じゃあ、また来月ね。かわいい坊や」


アイザックは返事もせず、くるりと背を向けて、歩き去っていった。





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サマンサと別れた後、セリーナに連れられてホテルのバーに行った。
セリーナがカウンターに座ると、なにも言ってないのにドリンクが出てくる。


セリーナ「ほとんど毎日、ここに来てるから」


「そうなの?」


「一緒にどう?」と誘われた私はコーラを一杯頼んだ。


セリーナ「それ、なに買ってきたの?」


セリーナが私の買い物袋を見て言う。


「ドレス。『キス・オン・ザ・リップス』パーティーで着ようと思って」


セリーナ「いくんだ、あのパーティー?」


セリーナの顔が少しだけこわばる。


「…うん、一応、誘われて」


私はアレックスたちに誘われた経緯を話す。


セリーナ「王子の誘いじゃ、断るわけにはいかないわね」


「正直、ちょっと気が進まないんだけどね」


セリーナ「なんで?」


「やっぱり、私なんかが行ったら場違いな気がして」


セリーナ「そんなことないよ」


セリーナは優しく微笑む。


セリーナ「それに行って損はないと思う」


「え?」


セリーナ「ブレアが開くパーティーに人気があるのは、やっぱり面白いメンバーが集まるから」
    「きっと○○が仲良くなれる子もいると思う。友達、作りたいでしょ?」






「友達か…、そうだよね」


(彼らと仲良くってちょっと想像できないけど…)


セリーナ「楽しんでおいでよ」


「え?セリーナはパーティー、行かないの?」


セリーナ「私?あ、うん、別の予定が…」


セリーナの表情が少しだけ硬くなる。


「別の?」


セリーナ「ライブに行くの、ダン・ハンフリーと」


「ダン・ハンフリーって、ジェニーのお兄さんの?」


セリーナ「知ってるの?ダンとジェニーを?」


「うん、ちょっとね。セリーナはどうしてダンと?」


ブルックリンで会ったときは、ダンはセリーナとは知り合いだとは言ってなかったはずだ。


セリーナ「私、昨日もここに来ていて、うっかり携帯なくしちゃったの」
    「それを今日、ダンが届けてくれて」


「へぇ」


セリーナ「で、彼がライブに誘ってくれたの」


「ちょっと意外だな。ダンとセリーナがデートって…」


セリーナ「うん。私もびっくり」


「え?」


セリーナ「まあ、正直言っちゃうと、『キス・オン・ザ・リップス』パーティーに行きたくないから」
    「彼に無理やり誘ってもらった…って感じかな」


「行きたくないから?」


セリーナ「私、ブレアとうまくいってないんだよね、なんとなく」


セリーナはグラスに一口、口をつけて、ふっと息をつく。


セリーナ「昨日もここで一緒に話したんだけど…まだ、スッキリしないって言うか…」


「そうなんだ…」


私はホテルの前で見かけた、セリーナとブレアの彼・ネイトとの会話を思い出す。



ネイト「戻ったんだろう?」
セリーナ「あなたのためにじゃない」
    「ブレアは親友なの。あなたはその彼氏で、愛されてる。それで丸く収まるの」



(もしかして、ブレアとうまくいっていない原因って…)


セリーナ「一年前の私は最低な女だったの」


「え?」


セリーナ「私が何をしてきたか話したら、きっと、○○も私のこと軽蔑すると思う」


「そんなことないよ…」


セリーナ「最低な自分がイヤでニューヨークから逃げ出して、一年かかって、やっと戻ってくる決心がついた」


「セリーナ…」


セリーナ「私、変わりたいんだ。昔の自分とは違う、新しい自分になりたい…」


セリーナは空になったグラスを見つめる。


「私はセリーナのこと、強くて優しい人だ…って思う」


セリーナ「え?」


「それってたぶん、セリーナが色々、辛いこととか苦しいこととか、乗り越えてきたから」

「セリーナはもう新しい自分になってると思う」


セリーナの伏せたまつげが小さく震える。


「私、ニューヨークで最初に出来た友達がセリーナでよかったって思ってる」


セリーナ「○○…」


セリーナはゆっくりと顔を上げ、私の方を見る。
その目にかすかな微笑みが浮かぶ。


セリーナ「もう1杯飲む?」


「え?」


いつの間にか私のコーラも空になっている。


「じゃあ、もう1杯」


セリーナ「私も。次はコーラにしようっと」


私たちはお代わりのコーラを頼んで、2人の友情に乾杯した。





夢回南朝をはじめてみた!!!

お久しぶりですヽ(・∀・)ノ 1年前購入したBloggerのアプリ使おうとすると なぜか落ちてしまいイライラ。 ということでPCから更新! 画像がめんどくさー 実は今絶賛ゲームにハマり中(*´艸`) 今までやってたゲームは今はやってなくて (でも...